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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(2)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

30 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:12:42
1ヶ月ほど経った時だった。
俺は部屋の片隅にほっぽり投げていた物が気になりだした。

それは別れた彼女から借りていた本やCD。
律儀な性格というわけではないが、ちゃんと返さなければと思った。
きちんと別離の言葉を口にして別れたわけではなかったため、なんとなく
ケジメが欲しかったのだと思う。

でもとてもじゃないが、また会って手渡しする気はない。
宅配便で送るため、彼女のマンションの住所を教えてもらおうと数ヶ月
ぶりにメールをした。返事はすぐに返ってきた。

「私も借りていた物を送りますので貴方の住所を教えてください」

ハッとした。俺たちは互いの住所すら知らないでいたんだと。
些細なことだが、妙にさびしくて、やるせない気持ちになった。
彼女からの事務的なメールの文面を見つめながら、すぐに住所を送信した。

そして荷物を送る手筈を整え、俺は今まで彼女と送受信したメールと、彼女
のアドレスを抹消した。だが期待していた解放感は得られなかった。

31 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:14:30
翌日の昼下がり、冴えない気持ちで仕事をしながらふと恵子ちゃんの顔が
頭に浮かんだ。人と話したくてしようが無かった。

俺のプライベートを知らない相手と。俺は恵子ちゃんに電話をした。
なぜかドキドキする。恵子ちゃんが電話に出た時、思わずビクッとなって
脇腹を攣った。脇腹を押さえながら、俺は恵子ちゃんを食事に誘った。

それなら今晩どう?と彼女。

即日となるとは思ってなかったが、是が非でも行きたかった俺は、普通な
ら残業コースとなる仕事を終業時間30分前には片付けた。この仕事は穴
だらけになっていて、翌日ひどい思いをすることになったのだが、俺は空
いた30分でネットをつっついた。食事の場所選びだ。知ってる店は全て
別れた彼女と共に行っている。それらの店は避けたかった。久しぶりの店
探しは楽しかった。


32 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:17:45
待ち合わせぴったりに彼女と会った。

よっ、という感じで彼女が敬礼する。俺も返す。
それだけなのに心が弾んだ。
店まで彼女を案内する道中、「歩くの早いね〜」と言われた。
俺の足はもうスキップに近かった。選んだ店はモニターで見るよりも印象が
良くて安心した。席につく時、俺は言った。

「今日は『どうぞマダム』って、椅子は引かないけどいいよね?」

もちろんジョークだ。笑いながら彼女が言う。

「じゃあ、いつもは引いてんのかいっ!」

これだ。これがいいんだ。打てば響く鐘、とでもいおうか。
こちらが差し出した話題にすかさず乗ってくる。披露宴の時に彼女と話して
いて好印象を持った原因はこれだった。別に芸人のようにツッコミ役を探し
ていたわけではないが。

食事は美味しかった。もともと美味しい店だったのだろうけど、女の子と
一緒に食事することで更に美味しくなった気がする。
異性が食事のテイストを上げるってこと、久しく忘れてたよ。

しかし…彼女は酒が強い!俺は人並み程度だったから、会話に夢中になる
あまりついついいつもの酒量を超えてしまっていた。
ギブだ。名残り惜しかったが店を後にし、彼女を送るためにタクシーに
乗り込んだ。ひどい酔いでクラクラ。車体の揺れが拍車をかける。
だが彼女のテンションは高く、俺は搾り出した笑顔でそれに応じた。

彼女のマンションは俺のアパートに近かった。車で10分といったところ。
また一緒に晩飯をと手を振り、彼女は車外へ。走り出すタクシーをじっと
見送る彼女。
俺はリアウインドウから最後の笑顔を振り絞ってそれに応えた。
300mほど走ったところでタクシーが門を曲がった。

運転手さんストップしてください。

蚊の鳴いてるような声で車を止め、俺は外に走り出た。何年ぶりだろう、
吐いたのは。滝のようにゲーゲーしながら、俺は辛いんだか嬉しいんだか
わからなかった。


33 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:19:50
それから彼女との付き合いが始まった。といっても単なる飲み友達のレベル。

でもウマが合うとはこのことを言うのだと、彼女に会うたびに実感した。
いろいろな話をした。彼女の仕事の話、彼女が趣味としている旅行の話、
アジアが特に大好きだということ、彼女が「書」を嗜むということ…
彼女の話の全てが新鮮で面白かった。

大抵は馬鹿話に花を咲かせていたが、時に真面目な話にもなった。そんな
時、彼女の考え方が自分と同じだったりすることもあり、俺はますます引き
込まれた。

その上彼女は聞き上手でもあった。俺の話を真剣に聞き、そして真剣な意見
をくれた。
その意見のどれもが的を射た内容であり、俺はいつも感嘆とさせられた。
思えばそれまでの俺は女性というものを馬鹿にしてきたのかもしれない。
口には出さず心のどこかで。

それまで付き合ってきた女性にいつも
「イエスマンは嫌いだから。自分の意見をちゃんと言ってよ」
などと言いながら、

「どうせ俺の意見のほうが正しい」

と聞き上手になれず、自分の考えで相手をねじ伏せてきた。


34 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:21:15
いつものように恵子ちゃんとさよならし、ひとりアパートに帰った時、
俺は考えた。結婚まで考えたあのコも、そうした自分の利己の犠牲にして
しまったんじゃないのか。

ようやく見つけた宝石だったかもしれないのに。今更遅いが、俺は反省
した。生まれて初めて、別れた女性にすまないと思った。

何回目かに恵子ちゃんに会った時、俺は言った。

「君と話してると楽しい」

女性に対して初めて言った言葉だった。大した台詞でもないのにね。

「私も。健吾君の話は面白いし、会うのが嬉しいよ」

彼女がそう応えてくれた時、俺の気持ちは決まった。
この宝石を失いたくない。


35 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/12(土) 01:24:15
もはやいつ告白をしようかと、その頃の俺はタイミングを計っていた。
悶々としてはいたが、そんなことを考えるのは本当に楽しい。

そんなある日のこと。
当時、俺はよく週末に太田家で夕食をごちそうになっていた。
お父さんや母、一つ下の義弟や3つ下の義妹と団欒を楽しんだ。
そろそろ30にもなろうかという独身男に、アパートでのひとりの食事は
味気なさ過ぎる。俺にとって大事なひとときだった。
その日もアハハオホホと宴もたけなわになってきた頃、お父さんが言った。

お父「最近、恵子とよく飲みに行ってるんだって?」
俺 「ええ。なんか気が合うんですよ」
義弟「付き合ってるの?」
俺 「いや、そういうんじゃないよー」
義妹「付き合っちゃえばいいじゃないですか〜」
母 「そういう気、あるの?」

俺は黙ってニコニコしてた。
そこで母が真顔になって言った。

母 「…でもねぇ。もしも、もしもよ?アンタと恵子ちゃんが結婚なんてこ
   とになったら、アタシとアンタのお父さん、親戚ってことになっちゃ
   うのよねぇ…」

頭が冷たくなった。俺、なんでそのことに気づかなかったんだろう。

母 「アタシもあの時、恵子ちゃんなんかいいんじゃない、なんて焚きつけ
   たけど、後から冷静になって考えるとそういうことになるのよねぇ」
義妹「それじゃ、結婚式はお父さんたちと健吾君のお父さんが同席!?花束
   贈呈の時なんか、健吾君側にはお父さんが2人並ぶの?」
お父「いや、もしそうなったら私が並ぶわけにはいかないだろう」

俺は慌てて取り繕った。

俺 「ちょっ、ちょっと!何勝手に盛り上がってんだよー。そんなことには
   ならんから!ただの飲み友達。安心しろって。…でもそーなったら、
   ちとオモロイねぇ…ふふ」
母 「やめてよねーあはは」

なんとか冗談で済ますことができたが、もう俺は酒も食事も味を失っていた。



【長編】早く結婚してくれ(3)へ続く。
posted by なな at 02:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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