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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(3)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

55 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:22:10
従姉弟同士は結婚できる。そう聞いたことがある。
ましてや俺と恵子ちゃんは血のつながりのない赤の他人。
彼女が俺に対して恋愛感情を持ってくれているのかはわからなかったが、
もし交際の申し込みにOKしてくれたならば、その先の展開も期待できると
思っていた。

だが親父の存在が、俺の淡い期待に影を落とした。
親父は心に傷を負っていた。母との離婚で生じた傷だった。

56 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:25:02
親父と母が離婚したのは俺が18の時だった。
高校3年の夏休みのある夜、母が俺の部屋に来て言った。
「お父さんと別れようかと思って」

その当時、親父と母の様子がおかしいことは気づいていた。
親父は大工で、典型的な頑固オヤジ。
もともと気難しい人ではあったのだが、最近とみにひどくなり、ほんの些細
なことでも怒り出すようになっていた。

幼き頃から拳で物事を教育されてきた俺も、さすがにこの頃の理不尽な親父
の態度には我慢がならず、よく反発するようになっていた。

母は母で、仕事から帰ってきても上の空、心ここにあらずといった感じ。
そして親父同様、ピリピリしていた。

そんな俺たちの姿に当時、中3の妹(俺には実妹もいる)は心を痛めていた。
そしてこの晩、両親がおかしくなった原因について母から聞かされた。


57 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:26:59
ウチは借金を背負っていた。
春先、母は勤め先の金を落としてしまったという。大金だった。

だがそんな金はウチにはない。職場にバレては…ということで、母は親父と
相談し、親父名義でサラ金から金を借り、なんとか補填したそうだ。
これで合点がいった。

それから一週間ほどした晩。家族の間で話し合いがもたれた。
親父が言った。

自分たち夫婦は離婚すること、ただし俺たち兄妹が学校を卒業した後に。
そして借金があること、だからこれからの生活が変わること。

いやだ、別れないでと妹が泣き喚いた。実の妹ながら常々クールなヤツだと
思っていたから意外だった。でもたかだか15歳の女の子だったんだから
当然の反応だったのだ。


58 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:31:17
しかし何より驚いたのは親父の姿だった。泣き出したのだ。
それはもう嗚咽に近かった。本当は別れたくないと、顔をクシャクシャに
していた。

それから離婚までは1年が流れたのだが、俺にとってあの一年はトラウマになった。

実のところ両親が離婚してしまうことにさほどのショックはなかったのだ
が、それからの親父の態度にショックを受けた。

あれだけ亭主関白で威張り散らしていた人が、夜6時過ぎには帰宅し、
晩飯を作って家族を待った。
その頃母は少しでも金を作ろうと残業する毎日で、俺や妹は受験のために
課外授業を受けていて帰宅は遅かった。

そんな俺たちを、親父は精一杯の笑顔で迎えた。
なんとか母に考え直してもらいたかったのだろう。
その姿は憐れで痛々しかった。
子供が親を、ましてや息子が親父を憐れむことほど悲しいものはないと
思う。

俺は親父にしょっちゅう殴られながら育ったが、それは今でいう虐待など
ではなく、星一徹と飛馬、あんな感じ。
殴られて畜生!と思うことはあっても、筋の通った説教をする親父を
恨んだことはなかった。それだけに豹変した親父の姿がやるせなくて、
嫌で嫌で、家に帰ることが苦痛になっていった。

しかしそんな俺たちの姿を見ても、母の気持ちが変わることはなく、
そればかりか親父に対する態度はどんどん冷たくなっていった。

一年後、離婚は成立し、親父が家を出た。

名門女子高への受験に失敗した妹はひどい精神状態になっていたため、
女親のほうがいいだろうと、母の手許に残ることになった。
そして母と妹を精神的にも経済的にも支えるため、同じく大学受験を失敗
した俺はフリーターとなり、彼女らと生活を続けた。

そして妹の私立高校入学費をプラスした借金返済は、全て親父が背負った。
親父に残ったのは多額の借金だけとなった。


59 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:33:59
時は俺たちの傷を徐々に癒していったが、親父の傷だけは癒えなかった。

就職してサラリーマンとなっていた俺は、ある時、親父を飲みに誘った。
その頃の親父は寂しさからか、頻繁に俺に連絡をしてきた。
いつまでもトラウマから抜け切れないでいた俺はそれを疎ましく思い、
大抵、忙しさに託けてあまり会おうとはしなかった。
それだけに親父は大いに喜んでくれた。

俺が親父を誘ったのには理由があった。

「親父、付き合ってる人いないのかい?」

これが聞きたかったのだ。

当時、俺は件の彼女と付き合い始めていた頃で、母親も太田のお父さんと
交際をしていたし、妹も仕事先の男性と結婚秒読みの段階だった。

母と妹がめでたく嫁いでくれれば俺は解放される。
自分で稼いだ金を自分のためだけに使うことができる。
この上親父にも幸せが訪れてくれていたら…俺の心配事は全てなくなる。
俺は浮かれていた。

「いる」
期待していた答えが返ってきた。俺は更に浮かれた。
「おっ!どんな人なんだい?」
「お前と同い年」
愕然とした。
「さ、再婚する気なの?」
「それは絶対ない」

酒が入ればだらしない顔になるはずの親父の顔は、生まれて初めて見る
険しさに満ちていた。


60 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:36:01
親父は言った。「もう二度と結婚はしない」

「相手が若くたっていいじゃない。親父だってまだまだこれからなんだから」
俺は自分でも余計なお世話だと思えるほどに、一生懸命、親父を説得した。
自分本位な理由で。そして更に、馬鹿な俺は親父に言ってしまった。

「母ちゃんだって、相手を見つけたぜ?」
俺はなんという残酷な男だったんだろう。

親父は静かに言った。
「もう、母さんのことは口に出すな。知りたくもない。関わりたくもない」
やっと俺は親父の傷に気づいた。

そして親父は、今付き合っている娘も単なる遊びだ、とも言った。
事実、その後親父は何人もの女性と付き合ったり別れたりを繰り返した。

その内の何人かと実際に会ったこともある。
「遊び」だと言われている女性に引き合わされるのはたまったものでは
なかったが、いつか親父の心に変化が現れるのではないかという期待も
あった。だがその期待は今日に至るまで裏切られ続けることとなる。


61 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/13(日) 02:39:03
太田家での晩餐を終え、アパートに帰った俺は思案に暮れた。

俺が恵子ちゃんと結婚などということになったらどうなるだろう。
恵子ちゃんが母の再婚相手の姪だと親父が知ったらどう思うだろう。

まだ恵子ちゃんとそんな関係になってもいないのに、
あれこれと脳内シミュレーションを繰り返す俺。
理屈でしか動けない、情けない男だった。

俺は決して親孝行な男ではない。
ただ親不孝なことはしたくないだけ。
そしてその思いは親父に対して尚、強い。

これ以上、親父から奪いたくはなかった。



【長編】早く結婚してくれ(4)へ続く。
posted by なな at 02:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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