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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(4)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

67 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:27:54
従姉弟というつながりがある以上、完全に接触を断つことはできないが、
俺は恵子ちゃんへの想いを消すために距離をおくことにした。
幸い気持ちを彼女に伝える前だったし、今ならまだ抑制がきく。
俺は徐々に電話やメールの数を減らしていった。

2001年も最後の月を迎えた。
会社までの道すがら、クリスマス色の街を眺めながらふと思う。
(ウキウキしてたな、去年は)

しかしこの夜、そんな感傷も吹っ飛ぶような事件が、俺の身に起こった。

69 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:30:45
その日は多忙を極め、俺は残業のためにひとり会社に残っていた。
と、突然激しい痛みが胸を襲った。
息は荒くなり、鼓動は早鐘のように加速する。

(やばい…きた。また、きちまった)

俺はその痛みを憶えていた。

俺は昔、心臓を患っていた。
病名は“移動性ペースメーカー”。不整脈の一種だ。

心臓を機能させる心拍(鼓動)は、ある一点から規則的に発信される
電気信号によって正常に紡ぎだされる。
移動性ペースメーカーとは、その電気信号が心臓のあらゆる箇所から
デタラメに発信され鼓動が乱れる症状を言う。
多くは過労・心労から発症するらしく、俺の場合も不規則な生活が
祟った結果であった。


70 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:33:52
高校卒業後の俺はコンビニの夜勤で一年間アルバイトをした後、
知り合いのツテで出版業界に就職した。

今はどうかわからないが、当時のその世界は凄まじい労働環境下にあった。
朝から朝まで働き、家に帰ってもシャワーを浴びてまた会社にトンボ帰り。
俺の職種はライターだったから、原稿が煮詰まればタバコやコーヒーの量が
増える。原稿が上がれば上がったで、夜中でも初校のために印刷会社を
駆けずり回る。

クライアントとの打ち合わせ、取材、資料集め…やることが多すぎて24時間
では一日が終わらない。それでも文章を書くことが好きだった俺にとって
その職は天職だと思っていたし、また家にもあまり居たくなかったから
仕事に対する意欲は持続できた。しかし身体が悲鳴を上げた。


71 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:35:37
ある時、俺は発作を起こし気絶した。潮時だった。
まだまだ俺は家計を支えなくてはいけない。こんなんで死ねない。

俺はその世界を去り、現在の会社に入って普通のサラリーマンとなった。
医者からもらった薬を服用しながら、お日様と共に生活する毎日。
社会人になってから初めて経験する“当たり前”の生活は効果覿面で、
俺はいつしか薬を必要としなくなった。

それが突然、再発した。なぜ???

それからは日を負うごとに発作の回数が増えた。なんだ?怖い。
一度、寝ている時に発作が起きてからは、夜眠るのも怖くなった。

そうして2001年は幕を閉じた。


74 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:37:13
年明け。
いよいよ危険だと感じた俺は大きな病院へと足を運んだ。
様々な検査で一日が暮れた。
検査のひとつにルームランナーみたいな機械で走らされるものがあった。
俺は検査の途中で死んじゃうんじゃないかと思った。

数日後、診断結果を説明しながら若い医者は言った。
「危なかったですよ」
めでたく手術入院が決定した。

入院の前日、俺はお父さんにお願いした。
「きっと気を遣うだろうから親戚の人たちには言わないで」
お父さんは約束してくれた。

病状は深刻だったが手術そのものはあまり難しくはないらしく、
1週間ほどで退院できるとのことだった。
手術は3日後で間があったが、友人や同僚がエロ本やらうなぎパイやらを
見舞いの品に携えて押し寄せたので、退屈はしなかった。

だがそこに期待した顔はなかった。
約束守り過ぎですよ、お父さん。ちょっとそう思った。


75 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:39:39
手術方法は胸をメスでかっさばいて…というものではなく、カテーテルと
いう方法だった。
足の付け根から極細の電熱線を血管伝いに心臓まで通し、心臓に散らばった
不必要な電気信号発信点を電気で焼く、というものだ。

足の付け根って…えっ、股間!?
部分麻酔をするから痛みはないですよと
医者は言ったが、いや、そうじゃなくて。
…ということは、剃るんでしょ…。

屈辱的なプレイを経て手術が始まった。


76 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:41:45
手術はつつがなく…というわけにはいかなかった。
まず尿道に通されていたビニールチューブがはずれ、俺は尿まみれで手術を
受け続けた。

1時間ほどで終わると言われていたので我慢していたが、2時間経っても
まだ終わる気配がない。
暇だから寝ちゃおうかと思ったが医者が寝るなと注意する。
もっとも寝ようにも手術台の横のモニターには俺の心臓が映し出されていて、
蠢くその心臓に無数の電線が絡み付いた不気味な映像が、俺の眠気を
木っ端微塵にした。

手術は難航している。どうやら予想を上回る数の発信点が、後から後から
現れるらしい。それらを電気で焼くたびに、じわっと胸が熱くなる。
もう発信点がないかどうかを調べるために、わざと心臓マッサージで鼓動を
激しくして不整脈を起こさせる。それが延々繰り返される。

仕舞いには胸の熱が耐えられない苦痛を伴ってきた。先生、ギブです。

「じゃあ、全身麻酔に切り替えますね。目をつぶって数を数えて〜」

ガスを吸わされながら「端っからこうしろよ」と毒づきつつ、
俺は10まで数えないうちに眠りに落ちた。


77 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:42:45
目覚めたら夜だった。結局手術は7時間かかったらしい。
身体は動かしてはいけないが食事は構わないということで、手術のために
昨晩から絶食させられていた俺は3食平らげた。
付き添いの母が俺の口に食事を運びながら言った。

「よかった」

俺は食事に夢中で母の顔は見ていなかった。


78 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:44:02
退院の前日、俺は喫煙所で予想もしていない人と会った。
田中一族の肇さんだった。お父さんの従兄にあたる人だ。

「びっくりしたな〜。健吾君が入院してるなんて聞いてなかったぞ?」
「ええ。大袈裟にしたくなかったんで、お父さんに口止めしてたんです。
 それより肇さんこそ、入院してるなんて知りませんでしたよ?」
「恥ずかしくてあんまり公言したくない病気だからね〜私も家族に口止めし てたんだよ」

肇さんは泌尿器科に掛かっていた。

「肇さん、俺のこと黙っててくださいね、みなさんには」
「わかったよ〜私のことも内緒だぞ?」

明くる日俺は無事退院し、長年の厄介者と決別した。


81 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:45:27
自分は健康だと自覚できるのは本当に素晴らしいことだと思う。
物事を見る目が変わる。いろんなことに感謝する。気持ちも前向きになる。
実際、会社の上司や同僚、お父さんや母から言われた。

「なんだか雰囲気変わったねぇ。角がとれたというか、いい感じだよ」

そんなに以前の俺はツンケンピリピリしたヤツに見られていたのかと
ちょっとショックだったが、半面、嬉しくもあった。
それからの毎日、すがすがしい気持ちで生活できた俺は、
これなら恵子ちゃんのことを忘れられると確信した。
新しい恋を探すぞ。


82 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:47:54
退院から一ヶ月。
週末、いつものように夕食をごちそうになりに太田家を訪れた俺は
ドッキリとした。恵子ちゃんがいた。

家も近いから恵子ちゃんも俺同様、太田家にちょくちょく顔を出して
いたので別段びっくりすることではない。
だが恵子ちゃんを忘れようと決めた日から、恵子ちゃんが太田家に来る日は
避けてきていた。


83 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:49:46
久しぶり〜と変わらぬ態度の彼女に俺も平静を装う。
意識しつつも酒が入れば酔いも手伝い、次第にドキドキ感はなくなって
いった。楽しい宴が進行していく。

酒を噴出しそうになったのはそれからまもなくの彼女の一言だった。

「そういえば健吾君、入院してたんだって?」

んなっ!?なんで知ってんの!?
俺は家族の顔を見回した。だが家族もキョトンとしている。
「肇さんに聞いたの。なんで教えてくれなかったの〜。
 水くさいな〜みんな」

…肇さぁぁぁぁん!

「い、いやぁあんまり大袈裟にしちゃうとさ、ほら、アレだよ。
 俺って人気者じゃん?田中一族が大挙して見舞いに来ちゃったら
 病院に迷惑かけちゃうしさー」

「なるほど〜、ってオイ!頭は治してもらわなかったんかいっ」

皆、俺と恵子ちゃんの漫才に笑った。ふええ、焦ったぜ。


84 名前:1 ◆SemWiFNIUE [] 投稿日:2005/11/13(日) 23:50:31
宴も終わり、みんなで後片付けが始まった時、
ふと俺と恵子ちゃんは居間でふたりきりになった。
ほろ酔い気分でおどけている俺に、ツツツと恵子ちゃんが寄ってきた。

「なんで言ってくれなかったの?」

軽く袖をひっぱられた俺は、口をあんぐりとしたまま呆けた。



【長編】早く結婚してくれ(5)へ続く。
posted by なな at 02:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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