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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(5)

早く結婚してくれ
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【恋愛サロン】

97 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:10:12
アパートまで恵子ちゃんが車で送ってくれた。
なんだか車内の空気が重く感じる。

「たかだか1週間の入院だったから、あんまり話を広めたくなかったんだよ。ただそれだけ」

なんだコレ。これじゃ彼氏が彼女に言い訳してるみたいじゃないか。

「ふーん」
そう言ったきり彼女は黙っていた。

98 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:10:58
翌日、会社帰りのバスの中で昨日の恵子ちゃんの態度を考えてみた。

あれは…そういうことなんだろうか?
彼女も俺に好意(異性としての)を持ってくれてると?

おそらく車窓に映っている俺の顔はニヤけていたに違いない。
一瞬、親父のことも忘れていた。

だがすぐに別の考えが頭を占める。
あれだけ仲良く飲み歩いた仲だ。
本当に言葉通り、単に水臭いヤツと思われているだけなんじゃないかと。

バスを降りた時には、俺の頭は結論に達していた。
やはり恵子ちゃんのことは忘れよう。


99 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:12:28
季節が夏を迎えた頃、他県に嫁いでいる妹が家族と共に里帰りした。
妹たちは帰ってきた際、いつも太田家に滞在する。
親父のアパートは1Rだったため、子供がふたりいる妹たちが寝泊りするに
は狭すぎた。親父も納得していた。悲しく寂しく思っていたとは思う。

お父さんは妹たちも暖かく迎えてくれていた。
妹やその旦那を娘・息子と接してくれ、子供たち(姉妹)も孫だと喜んで
あやしてくれた。
俺はその光景を見るにつけ、親父の丸まった後姿を思い浮かべた。


100 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:13:35
妹たちが去る前日、みんなで外で食事をすることになった。
俺、お父さんと母、義弟と義妹、妹と旦那、姪っ子ふたり、大勢での食事。
絵に描いたような団欒を、俺はとても大切に感じていた。

なにが火種になったのかはよく憶えていない。些細なことだったと思う。
その食事の最中、俺と母は口論になった。
義弟や義妹、妹夫婦が母に味方する。お父さんは黙っていた。

母が言った。

「入院して変わったと思ってたのに。結局アンタの短気な性格は治ってないね。
 そんなんだから結婚相手にも逃げられるんだよ!」

カーッと熱くなった。
(そんなこと…!俺に言えるのかアンタは!!)
それまで母に抱いていた感情が爆発した。


102 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:15:52
数年前から俺は母に金を貸していた。

「旦那(お父さん)があまり家にお金を入れてくれなくて…」
母が俺に借金をお願いしてきたときの理由だ。

母は嫁いでからも働いていたし、お父さんは一流会社の重役で社会的地位の
ある人だったから、なぜ金に困るのかとはじめは思った。

しかし部下想いで面倒見の良いお父さんの金離れのよさは知っていたし、
親戚が多い環境だから友好費も並々ならぬものがあると母に聞かされていた
から、そういうものだろう、とその時の俺はそれ以上深く詮索せず金を貸した。

それ以降もちょくちょく金を貸し続けていたが、返済は滞り、ほとんど
戻ってはこなかった。しかし独身男の身軽さゆえにゆとりのあった俺は苦も
無く金を工面してきた。

金に苦労してきた母だったから、なるべく負担を減らしてあげたいという気持ちもあった。

前の彼女と別れた後、母が言った。

「アンタが結婚してなくて助かった」

この人に人の心はあるのか、そう俺は思ったが口には出さなかった。


103 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:17:08
そんな想いや、親父のこと、そしてなぜか恵子ちゃんのことまでが一度に
噴出し、俺の心は煮えくり返った。
お父さんが引き止めるのも聞かず、俺は食事の席から飛び出した。

明くる日の晩、仕事帰りのお父さんが俺のアパートを訪ねてきた。

俺は家に上げようとはせず、玄関先でお父さんと相対した。

「いくら君が短気だったとしても、あんなことくらいであれほど
 君が怒るとは、私には思えない。
 なにか想うことがあるのなら話してくれないか?」

視界が滲んだが、俺はそっぽを向いて黙りこくった。

「…私の目を見ないんだね。わかった。帰るよ」

それから俺は太田家に寄り付かなくなった。


104 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:18:13
秋、俺に転機が訪れた。
東京本社への転勤を言い渡されたのだ。
恵子ちゃんのことも、母のことも、全てを清算したい気持ちでいっぱい
だった俺は、初めて体験することになる大都会での生活に希望を抱いた。

引越しまで一ヶ月となったある日、恵子ちゃんからメールがきた。
それは彼女が子供の頃から続けている書道の展覧会への誘いだった。
俺は仕事を理由にその誘いを断った。

「じゃあ、また今度ね」
とメールが返ってくる。
これから先も「今度」はない、俺は思った。


105 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:19:28
日曜日。展覧会の最終日。
いつもなら昼過ぎまで寝ている俺がなぜか早くに目覚めた。
(今日が最終日だったな)
そう思うとソワソワしてきた。

夕方、とうとう我慢ができなくなった俺は展覧会場へと出かけた。
(どうせもうオサラバなんだ。作品を観ることぐらい問題ない)
自分に言い訳をしていた。

閉会まで30分と迫った会場へ着き、彼女の作品を探す。
…見つけた!

俺はてっきり莫山先生のようなワケのわからないミミズ文字を想像していた
のだが、そこにあった彼女の作品は普通の人が読める字だった。
俺は目を見張った。

題材は工藤直子という詩人の「花」という詩。

 わたしはわたしの人生から出ていくことはできない。
 ならばここに花を植えよう。


帰りのバスの中で、俺は太田家のみんなが恋しくなって、途中下車した。


106 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:20:35
太田家を訪ねた俺を、お父さんは黙って迎えてくれた。笑顔だった。
母は申し訳なさそうにモジモジとしていた。
俺はいつものように「ゴチになるぜ!」と母に笑いかけた。
母は泣き笑いのような表情で台所へと向かった。

食事になり、俺は転勤のことを話した。
みんなは一様に驚き、さみしがり、そして祝ってくれた。

もう二度と家族のことを切り捨てまいと、俺は心に誓った。


107 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/16(水) 07:21:30
その晩、俺は恵子ちゃんに電話をした。
気持ちを伝えることはやはり出来ないが、お別れの言葉だけは言いたい。
感謝の言葉も言いたかった。
しかし「さよなら」は言えても、
「ありがとう」は恥ずかしくて言えなかった。

恵子ちゃんは「いってらっしゃい」と言ってくれた。

これで本当に終わったのだと、俺は思った。



【長編】早く結婚してくれ(6)へ続く。
posted by なな at 02:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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