AX

2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(6)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

112 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:04:06
それから一週間後。
俺は親父に電話し、食事に誘い出した。
すでに転勤のことは話していたので、やけに親父が寂しそうに見えた。
特に話すこともなかったのだが、なんだか別れ難かった。
親父はこれからの俺の生活に、
ただ「がんばれ、がんばれ」とだけ言い続けた。

別れ際、親父が祝儀袋を俺の手に握らせた。
掴んだだけで中身の厚さがわかった。
当時、親父は長年勤めていた建設会社を辞め、フリーの大工
(変な言い方だが)として全国を駆け回っていた。
何人か若い人間も雇っていた。決して生活は楽じゃなかっただろう。
俺は黙って受け取った。

113 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:05:26
転勤2日前、会社の同僚や上司、取引先の人たちが壮行会を開いてくれた。

会には50人もの人たちが出席してくれ、俺はひとりひとりへの挨拶に追われた。

一通り挨拶も終わった頃、俺は皆の目を盗んで店の外に出、タバコに火を
つけた。そこへ女性がひとり近づいてきた。
取引先の秘書、野田 芽衣子さんだった。
取引先の窓口だった彼女とは仕事での付き合いも深く、また会社同士の
飲み会でもよく顔を合わせていた。

「大変ですね」
「ええ。でもこれが最後だから」
「この後、2次会も行くんですか?」
「アイツら(同僚)帰してくれませんよ(笑)」
「私もお邪魔していいですか?」
「もちろん。アイツら喜びますよ」

彼女はウチの会社でも評判の美人で、内外問わず狙っている者も多かった。
それに大抵彼女は、こういった会では一次会だけで帰ってしまう人だった
ので、彼女の参加表明に俺は満更でもなかった。


114 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:07:04
2次会は同僚や取引先の若手だけでカラオケに行くことになった。
飲み会などでの俺はいつも盛り上げ役に徹していたので、この時も俺は
カラオケ部屋を縦横に走り回ってはしゃぎまくった。

小一時間も経った頃、さすがに疲れて端っこの席に座り込んだ俺の隣に、
芽衣子さんが移動してきた。
手にはジンライムのグラスを持っていた。それを「はい」と俺に渡す。

「ああ、ありがたい。喉カラカラでした」
「少しゆっくりしたらいいじゃないですか」
「最後だと思うとどうにも落ち着かなくて。性格ですね」
「あんまり最後、最後って言わないでください」

いつもはおっとり喋る彼女の口調が変わった。

「今日は…今日ぐらいはちゃんとお話したいです」


115 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:07:53
一瞬ぼーっとなったが、俺はすぐに我に返って芽衣子さんを部屋の外に
連れ出した。

「あの…俺と付き合いませんか?」
我ながらあまりにも唐突であっさりだったと思う。
でもこの雰囲気は…そういうことなんじゃないかと思った。

「はい」
彼女の返事もあっさりだった。


116 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:10:15
明くる日、とうとうこの土地での最後の日を迎えた。

別に感慨深いとかそういうのはなく、それよりも昨晩の芽衣子さんとの
ことが気に掛かった。

(俺…付き合おうって言ったんだよな?)

彼女の「はい」という返事も憶えていたが、なんだか夢見心地で自信が
持てない。昨日は結局3次会まで行ってしまったし、俺も相当に酔って
しまった。

芽衣子さんも最後まで付き合ってくれていたが、ベロンベロンになってた
俺は携帯番号やメアドすら聞かず、彼女を送ることさえしていなかった。

午後、俺は芽衣子さんの会社に電話した。

「あの、もしもし大塚です。昨日は…」
「あ、ごめんなさい。今取り込み中なのでまた連絡します」

ええええええーっ!?やっぱアレ夢だったんか!?!?

30分後、会社にFAXがきた。芽衣子さんからだった。

「憶えててくれたんですね。よかったー!
 私、夢でも見てたのかと思って心配してたんです。
 携帯番号とアドレス書いておきます。後で連絡ください。
 最後のお仕事、がんばってくださいね!!    芽衣子」

ほっとして、彼女の字がいとおしくなった。
始まりこそなんであれ、芽衣子さんはきっと俺の大切な人になると思った。


117 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:11:49
その日は残務整理だけだったので早目に会社を出た。
すぐに芽衣子さんの携帯に電話する。

(あ、いけね。彼女はまだ仕事中じゃないか)

あわてて切ろうとしたら芽衣子さんが出た。

「ごめんね。仕事中だったよね」
「いえいえ(笑)大塚さんは?」
「もうおしまい。会社出たところ」
「じゃあ…」

彼女の声が小声になった。

「私、早退しますね。ちょっと待っててください」
「あ、ちょっ、ちょっと!」

電話が切れた。


118 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:12:57
30分後、喫茶店で芽衣子さんと会った。

「そんな無理することないのに…」
「いいえ!いいんです(笑)」

笑顔が可愛かった。

それから2時間あまり、色々なことを喋った。
これまで仕事上か飲み会でしか話す機会がなかったから新鮮だった。
俺は気になっていたことを聞いた。

「昨日は突然あんなこと言って…びっくりしたでしょ?」
「はい(笑)でも私も告白するつもりだったんです」
「そ、そうなの?」
「ええ(笑)でも大塚さん、みんなに囲まれててなかなかふたりに
 なれなかったからもどかしかったです」

恥ずかしそうにしている彼女がなんとも可愛い。久しぶりの感情だった。


119 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:14:04
すでに家財道具は引越先に送っていたので、この日は太田家で最後の夜を
過ごすことになっていた。
でも芽衣子さんともう少し一緒にいたい。彼女が俺の心を見透かすように
言った。

「今日はもうお家に帰ってあげてください。これからも一緒でしょ?
 私たち」

たまらなくなって、彼女の手を握った。

「明日、見送りに行きますね」

彼女が握り返してきた。


120 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:15:01
翌朝、俺はお父さんの車に乗って駅に向かった。母たちも一緒だ。
と、お父さんの携帯に電話が掛かってきた。
お父さんの話しぶりで相手が誰だかわかった。

「恵子ちゃん…ですね」
「うん。これから健吾君の見送りに来るって」

芽衣子さんとの待ち合わせの時間までにはまだ間がある。
それに…大丈夫。俺にはもう芽衣子さんがいる。

すでに駅に着いていた恵子ちゃんと合流し、みんなで喫茶店に入った。
いつもだったらすぐに馬鹿騒ぎになる彼らも、この時は口数が少なかった。
笑顔で餞別をくれる彼ら。
その気持ちが伝わってきて、俺は胸がいっぱいになった。


121 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:16:21
ふと喫茶店の窓がコンコンと鳴った。

!!

振り向くと芽衣子さんが笑顔で立っていた。
芽衣子さん、早い。

「だれ〜?」
母や義妹が冷やかしの視線を向ける。
「ん。今付き合ってる人」
「ひゅーひゅー」
義弟も冷やかす。古い表現だなオイ。

お父さんが窓越しに「おいでおいで」と芽衣子さんを手招いた。
小走りに芽衣子さんが店に入ってきた。
芽衣子さんをみんなに紹介し、みんなを芽衣子さんに紹介した。
さすがに一昨日から付き合い始めたとは言えなかった。

少しの間、芽衣子さんを交えて話をした。

「それじゃ、お邪魔にならない内に我々は帰りますか。元気でね、
 健吾君!」

恵子ちゃんが笑顔で俺の腕を叩いた。

122 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:17:22
新幹線の発車時刻まではまだ時間があった。
俺と芽衣子さんはホームのベンチで手を繋ぎながら話をした。

「なるべくマメに帰ってくるよ」
「無理しないでね。遠距離だからって気負わないで。私は大丈夫!」

もっと早くこんな展開になってたらなぁ。行きたくないな、東京。

新幹線がホームに入ってきた。
手を放し、デッキから芽衣子さんを見つめる。
芽衣子さんが何か言いたそうにしていた。俺も…したかった。

ドアが閉まった。
俺はおどけて、窓越しに芽衣子さんに投げキッスを贈った。

ホントにやりゃよかったのに。馬鹿。


123 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:18:39
職場は東京だったが、俺は住まいを横浜に決めていた。
田舎モノの俺にいきなり東京暮らしはハードルが高いとビビッていたのと、
俺の生まれは川崎市だったので生まれ故郷に近いところを選んだからだ。
しかし横浜もとんでもなく都会だった。

新しい職場での仕事は思ったよりもすんなりと入っていけた。
順調な滑り出しに心に余裕が持てた俺は、暇を見つけては色々な場所へと
出かけ、遊び、観て、食べた。


124 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:20:10
そして東京に来て2週間後、俺は芽衣子さんに会いに地元に帰った。
さすがに早っ!とは思ったが、遠距離恋愛なんて初めての経験だったし、
こういうことは男側が努力しなければいけないと思っていた。
なにより芽衣子さんに会いたい。なんの苦もなかった。

芽衣子さんはホームまで出迎えに来ていた。

降り立った俺に芽衣子さんが抱きついてきた。
背の高い彼女の顎が俺の肩に乗っている。俺は彼女の頭を撫でた。

あの早退の時もそうだが、芽衣子さんは俺が思っていた以上に積極的で
行動派だった。
付き合い始めてから知る相手の意外な一面というものは良いことも悪いこと
もあるが、芽衣子さんのそれは俺を喜ばせることばかりだった。


125 名前:1 ◆SemWiFNIUE [sage] 投稿日:2005/11/17(木) 05:21:08
楽しすぎたデートはほんの一瞬に感じた。
帰りもまた、彼女はホームまで一緒に来てくれた。
朝から今まで、ずっとふたりは喋り続けていたが、
新幹線がホームに入ってくると彼女は黙りこんでしまった。

はぁ、行くか…と、ベンチを立つ俺の手を彼女が放さない。
座ったまま、芽衣子さんがじっと俺を見る。

上目遣いをする女性は確信犯だと思う。
俺は彼女の顔に俺の顔を重ねた。

それからも俺は2週間置きに芽衣子さんに会いに行った。
いつのまにかクリスマスがまた近づいていた。




【長編】早く結婚してくれ(7)へ続く。
posted by なな at 02:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※半角英数字のみのコメントは投稿できません。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/17465501
※半角英数字のみのトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。