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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(9)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

176 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:11:17
プライベートがうまくいってないと、仕事までうまくいかないのだろうか。

毎日なにかしらやらかし、何をしても空回りする日々がしばらく続いた。
社会に出て10年余、
どんなに辛いことがあっても仕事に影響するなんてことはなかった。
それが、色恋沙汰で我を失っている。
これじゃアカンがなと思う反面、案外俺も普通の人間だったんだなと
実感した。

177 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:12:45
秋になった。
大きな失敗こそしなくなったが、相変わらず仕事はパッとしない。

ある日、見かねた先輩が俺を飲みに誘った。

「どうしたんだ、ここんとこ?何かあったか?」
「いえ、別に。何もないですよ」
「そうか?お前はそういうことあんまり話さないからなぁ。彼女と何か
 あったのか?」

彼は俺が転勤する際、本社から残務整理の手伝いのために来ていた人
だったので、俺と芽衣子さんが付き合っていることは知っていた。

「彼女とは…終わったんですよ」
「…そか。まぁ、どうせ話さんだろうから深くは聞かんけど」

そう言って、先輩はそれ以上クドクド説教することはしなかった。

飲んでいる間、先輩がさりげなく気を遣ってくれているのがよくわかった。

ありがたかった。
こんなところで駄目になっちゃだめだ。
たった1年かそこらで都落ちなんてしてられっか!
俺は少し前向きになれた。

そろそろお開きにするかというところで先輩が言った。
「パーッと合コンでもすっか?俺、セッティングしたる」

それもいいか。

「レベル高いの、たのんますよ!(笑)」
カラ元気で言った。

178 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:14:05
2週間後、六本木で合コンとなった。

こちらは先輩と俺、相手はOLふたり。
とても綺麗な人たちだった。
丸の内で働いているというふたりはさすがに垢抜けていて、会話も洗練
されている。話していて楽しかったが、当たり障りのない会話に虚しさも
感じた。

「ダメですよ!故郷のこと、そんな悪く言っちゃ!」

OLのひとり、関口さんが真剣な顔で言った。

会話の流れで俺の田舎の話になっていた時だった。
「○○なんて、いいところに住んでたんですね〜」
「いや、大したトコじゃないですよ。田舎だし」
「ええ〜?都会じゃないですか〜」
「中途半端にね。あんまり面白いところじゃないです」

横で聞いていた関口さんが俺を叱り付けた。

場が一瞬凍った。

「大塚〜!関口さんがもっと訛っていいってよ!(笑)」
先輩、ナイスフォローです。

また和気藹々とした雰囲気に戻ったが、
関口さんは恥ずかしそうに俯いていた。

179 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:15:35
2軒目はどうするかということになった。
俺は関口さんのさっきの態度が気にかかり、先輩に誘ってもいいかと尋ねた。
先輩は意外そうな顔をしていたが、
もうひとりのOLさんを連れてさっさと行ってしまった。

「もう少し、飲みません?」
「ええ」

関口さんを伴い、落ち着いて話せそうな店に入った。

1軒目よりも静かな会話だったが、お互い打ち解けた感じになった。
関口さんも
「こうして落ち着いて話せるほうが好きです」
と言っていた。

まったりとした時間を楽しみつつ、俺は気になっていたことを口にした。
「さっき、俺叱られちゃいましたね、関口さんに(笑)
 なんか悪いコト、言っちゃったかなぁ?」

彼女が目を丸くした。
「ごめんなさい!あんな大声出すつもりなかったんですけど…なんか…」
「なんか?」
「故郷の話をしてた時の大塚さん、辛そうな顔してた気がして…」

180 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:16:46
黙って話を聞いた。

「私はずっと東京で生まれ育ったから故郷がある人の感覚はよくわからない んですけど、普通、故郷の悪口を言う人って、それが冗談だったり、
 口ぶりに愛着が感じられたりして、本心で言ってるようには感じられない んです。でもさっきの大塚さんはとても辛そうに見えました」

真剣に話す関口さんが恵子ちゃんとダブって見えた。

お互いのメアドを交換し、関口さんと別れた。

なんだか無性に恵子ちゃんと話したくなった。
携帯のアドレス帳を開いたが、やっぱりやめた。

181 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:18:15
俺の気持ちが通じたのか。
数日後、携帯に恵子ちゃんから電話が入った。

その日はタイミング悪く夜勤中で、着信に気づいたのは翌日だった。

電話しようかしまいか夜まで迷った挙句、メールを送った。

「久しぶり〜!元気だった?昨日はごめんよー。夜勤中だったから」

返信はすぐに来た。

「ごめんね、突然電話して。夜勤だったんだ。ごめんなさい」

また送る。

「どしたん?何かあったのかい?」

また返信が来る。チャットのようなメールのやりとり。

「うん。最近落ち込んでて…ちょっと健吾君の声が聞きたかっただけ」

こんなに弱い感じの恵子ちゃんは初めてだ。
思い切って電話した。

182 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:19:20
メールほど暗い声音ではなかったけれど、
恵子ちゃんが無理して明るく振舞っている感じがした。

「悩みがあるなら話してみなよ。大したことは言えないだろうけど」
「ありがとう。あのね…」

よっぽど我慢していたのだろう。どっと恵子ちゃんの言葉が溢れ出た。

ずっと仕事のことで悩んでいたこと。
精神状態が影響したのか、三半規管をおかしくして耳の病気になったこと。
仕事を続けられなくなり、とうとう会社を辞めてしまったこと。
お母さんが更年期障害で倒れたこと。
次の仕事も決まらず、またお母さんのことも考え、
マンションを引き払って実家に戻ったこと。
そんな状態だから、次の書展に出す作品も煮詰まってしまっていること。

気丈に話していたが、言葉は泣いているように感じた。

俺は通り一遍の慰めしか言えなかったが、
彼女は何度もありがとうと言ってくれた。声が震えていた。

「健吾君と飲みに行ってた頃が恋しいよ。
 あれって、私にとって大事な時間だった」

深い意味は無い。彼女は気弱になってるだけ。

落ち着きを取り戻した彼女がおやすみと言った。

183 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:20:09
翌日、俺は開き直った。

恵子ちゃんと、このままで行けないだろうか。

もう恵子ちゃんを無理に忘れなきゃいけない理由は何もない。
俺と彼女の道が交差することは絶対に無いし、そんなことは出来ないけど、
せめて平行に歩いていくことは許されないか。
それは辛さを伴うし、
いつかこの先、もっと大きな辛い結末を迎えるかもしれないけど、
その時まで、ほんのちょっとでも幸せな気分を味わいたい。
俺の気持ちさえ誰にも悟られなければ、なんの問題もないはずだ。

ナルシシズムな考えに、俺の気持ちは軽くなった。

184 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:20:57
それからは頻繁に電話とメールのやりとりをした。

決して気持ちを気取られぬよう、細心の注意を払いながら、
真面目な話、馬鹿な話、楽しい話をした。
恵子ちゃんも明るさを取り戻してきた。

185 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:21:58
12月。
いつものように送られてきた恵子ちゃんのメールは沈んでいた。

秋に仕上げた書の作品が落選したという。
彼女の書道歴は年季が入っており、
階位で言えば「師範」の腕前を持っていた。
それだけに周囲から受けるプレッシャーも相当なものだったろう。
加えてあの頃の彼女のプライベートはボロボロだったし。
無鑑査で出展はされるが、見に行く気力がないと言っていた。

拠り所とするものが上手くいかない。
きっとそれはものすごく辛いことなんだろうな。

186 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:23:18
すぐさま慰めたくて俺は携帯を手にとったが、
口にできる言葉なんて高が知れている。
俺はメールを送ることにした。

「ひとつの作品を生み出したというコト、
 それを多くの人が見にくるというコト、
 それが恵子ちゃんへのご褒美だと思う。
 だから、おめでとう」

返事はすぐ来た。

「ありがとう。
 まだまだ私は未熟だけれど、でも何かを表現したくて、
 それをいろんな人に見てもらいたくて、
 だから、それを形に出来て、そういう場を持てているということは、
 有難くて、幸せなことなんだよね。目が覚めました。
 とっても素敵な言葉を、ありがとう」

おかげで展覧会に行く気になれたと彼女は言った。
上野の美術館で来年2月。
ぜひ一緒に観てほしいという彼女に、俺は「もちろん!」と約束した。

今年もひとりの年末だったが、心は少しあったかかった。

187 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:24:16
2004年。
年が明け、俺は2月を心待ちにした。遠足を待つ小学生の気分。

仕事はますます不規則になり大変だったが、張り合いがあるから苦にも
ならない。現金なものだ。

そして当日がきた。
上野駅に降り立つとすでに恵子ちゃんはいた。

なんか痩せたな。ちゃんと食べてんのか?

「恵子ちゃんもお母さんも、身体は大丈夫?」

ふたりとも快方に向かっているとのことだった。
しかも彼女は地元で職に就き、順調な生活を送っていると。ほっとした。

一年半ぶりに会う恵子ちゃんの笑顔は変わってなかった。

188 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:25:13
彼女の案内で美術館へ。
「初めて見せるね、私の作品。これが賞を逃した傑作です(笑)」
彼女の指の先に、懐かしい字があった。

今回の作品は俵 万智の歌だった。

 朝市はにんげんの市。
 食べる買う歩く語らう
 手にふれてみる。

この歌は俵のバリ旅行記の歌だそうだ。

昔、恵子ちゃんもバリを旅行したそうで、
その時感じたバリという国が持つ生命力が、あのとき無性に懐かしくなったという。

きっと彼女は自分の作品に癒されようとしたんだろう。
あんな精神状態の中でこんな力強い文字が書けるなんて。
しかもそれを書いたのは、今俺の横にいる小さな女性なのだ。

「この人です!この人がコレ書いたんですよぉ!」

俺は叫び出したくなった。

189 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:26:15
その後、2時間以上もかけて会場を観て回った俺たちは、
彼女の「ベタな観光地に連れてって(笑)」という要望を叶えるべく、
汐留の有名な店でランチをとり、お台場の某TV局を巡った。

「なんだか垢抜けたね、健吾君。いろいろあったんだろうね」

TV局の「球」から夕暮れの海を眺めていたら、
恵子ちゃんがまじまじと俺の顔を見て言った。

ドキンとしたが、

「もともと持ってた俺の都会的な一面が、ハマで開花したんだよん(笑)」
とかわした。

恵子ちゃんはツッコミもせず、ただ微笑んでいた。

190 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:26:56
帰りの新幹線の時間を気にしなくてもいいように、
俺たちは東京駅で晩飯を食べることにした。

酒も食もすすんだ。
ふと、恵子ちゃんが言った。

「あのね。私、今付き合ってる人いるの」

鼻の奥がツーンとした。

191 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:28:11
その彼は友人から紹介された人だと言う。
年は30代後半。大人の人だ。

「おお!おめでとさーん!」
やめろ馬鹿。
「どんな人?照れんなよぉ!教えろって(笑)」
口が止まらない。

「ん。やさしい人。私が大変な時も助けてくれた」
「いいじゃん、いいじゃん!…で、結婚とか考えてるの?」
「まだわかんない。そういう話はまだしてない」
「しちゃえばいいじゃん!恵子ちゃんに気持ちはあるんだろ?」
「うん…でも考えること、いろいろあって」
「なにを考えるってのさ?こういうのってタイミング大事だぞぉ(笑)」
お前はそのタイミングをいつも逃してるだろ…。

恵子ちゃんが真顔になった。
「なんか…結婚させたがってない?」

「そ、そりゃ従姉が幸せになるってのは嬉しいことだもの!」

「ありがと」と言う恵子ちゃんとは目が合わせられなかった。

改札口まで恵子ちゃんを送った。
早く帰したいような、引き止めたいような。
改札の向こうに行ってしまった恵子ちゃんは、何度も振り返って手を
振った。姿が見えなくなるまで俺も手を振った。

192 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:29:22
また、“大好きな”悶々とした時間が訪れた。

開き直ってわずか3、4ヶ月。
これが結末か…早いなちょっと。もう少し時間があると思っていた。

一ヶ月後、結婚式の招待状が届いた。
送り主の名は…田中…。

きた!!!!!!!

…ん、いや、違う。恵子ちゃんのお父さんの名じゃない。

それは田中一族の別の従兄さんからの招待状だった。

脱力して安心し、安心したことに憮然となった。

(もう覚悟決めろよ、俺)

しかし覚悟を決める材料は、
いつまで経っても恵子ちゃんから届かなかった。

193 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:30:20
6月。
従兄さんの結婚式に出席するため俺は帰郷した。

2月以来、一切連絡を取り合っていなかった恵子ちゃんと顔を合わせる。
いたって普通。元気そうだ。変に意識していたのは俺だけだった。
きっと彼氏とうまくいってるんだろうな。チクリとした。

またも席は同じテーブルだった。
しかも今回は隣。まぁ、意識する必要はないんだけど。

披露宴もたけなわを迎えた頃、恵子ちゃんが俺の肩を叩いた。

「終わったらすぐ帰るの?」
「いや。この後親戚だけで軽く飲むんでしょ?顔出してくつもりだよ」
「そう。だったら後で時間くれる?話があるの」

きた。今度こそきた。はぁ。

「んん〜?彼氏のことかい?(笑)」

おどけた俺の言葉は、なぜか無視された。

「???」

194 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:31:17
田中の家に移ってからは、時間がやたら長く感じた。
酒の味もよくわからない。

やだなぁ。ああ、いやだ。
このまま恵子ちゃんのスキを見て、逃げちゃおっかな。
本気で考えた。

帰りの新幹線の時間が迫ってきた。
恵子ちゃんは台所に行ってる。
チャンスだ。
俺は中腰になって「そろそろお暇しますね」と親戚一同に挨拶した。
従兄のひとりが「駅まで送るよ」と言った時、背後から声がした。

「私、送るよ。飲んでないし」

…恵子ちゃん。
つかまってしまった。

195 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/19(土) 06:32:25
みんなの手厚い見送りを受け、恵子ちゃんの車に乗り込んだ。

走り出すと恵子ちゃんが言った。

「話があるって言ったじゃない」
「ご、ごめんごめん。酔ってて…」

彼女は怒ってた。ちょっと怖い。

駅前のロータリーに車が止められた。
俺は覚悟を決めた。でもまた口が動いた。

「とうとう彼氏と結婚する気になったん?」

「黙って聞いて」

ぴしゃりと遮られた。

「あのね」

「健吾君のことが、好きなの、ね。
 付き合ってほしいな、って」

今までで一番色気のない告白だったが、
俺を一番動揺させた告白だった。




【長編】早く結婚してくれ(10)へ続く。
posted by なな at 02:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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