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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(10)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

216 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:35:19
もう1コ、脳が欲しかった。
とてもじゃないが混乱しすぎて整理できない。
また病気が再発したんじゃないかと思えるほど鼓動もひどい。

ようやく、半開きになった口から言葉を出した。

「かかか、彼氏は?彼氏のことは?」

「別れたの」

恵子ちゃんはずっとそっぽを向いたまま、こちらを見ようとしない。

「別れたって…どうして!?」

恵子ちゃんが上ずった声を上げた。

「理由なんかない!」



「健吾君が、好きなんだもん」

もうこの場に居るのが耐えられなかった。

「ごめん。考えさせて」

俺は逃げた。

最後まで恵子ちゃんはこちらを見なかった。

217 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:36:38
いつもなら爆睡する新幹線。でも今日は寝れるわけがない。

うれしかった。正直に。

本当に好きで好きでたまらない相手から告白された。
初めての経験。

恵子ちゃんの顔が浮かぶ。
思考が短絡化する。

もう何も考えないで、恵子ちゃんの気持ちに応えてしまおうか。
「俺も好きです」と、ぶちまけてしまおうか。

きっと最高の日々が始まる。
笑顔の俺の顔が頭に浮かんだ。


…いけね。また口、開いてら。

乾いた口の中を舐めた時、親父の顔も浮かんできた。

218 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:37:35
我に返ると横浜に着いていた。
あんなに考え事をしていたのに乗り換えミスも乗り過ごしもしていない。
習性ってすごいなと、くだらないことを考えて気を紛らわそうとした。

引き出物を床に広げ、もらった折り詰めに箸をつける。
普段食べてるコンビニ弁当よりも格段に豪華な食事。
なのに食がすすまない。

恨むよ、恵子ちゃん。
せめて夕食後に告白してくれれば。
いや、だからといってどうというわけじゃないんだけど。

愚にもつかないことを考えながら、食べ残した折り詰めを冷蔵庫にしまう。

ダメだ。今日は何も考えられない。
車の中での風景がリピートされる。

「考えさせて」

馬鹿な台詞を吐いたもんだ。考える余地なんて、そもそもないだろ?
もうずっと昔から、答えなんて決まってただろうに。

もう寝よう。夢を見よう。いい夢たのむ。

219 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:38:26
0時頃、メールの着信音で目を覚ました。

恵子ちゃんからだった。
立て続けに3通。

俺はメールを開かずにまた目を閉じた。



………。



着信ランプが瞼越しにチラつく。

わかった。わかったよ。見りゃいいんだろ。

薄目でメールを開いた。

220 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:39:29
「こんな夜中にごめんなさい。
 無事、お家に帰れたでしょうか。

 さっきは聞いてくれてありがとう。
 でも恥ずかしくて伝えられなかったことがあって…メールしました。

 私は、健吾君と話をしたり、一緒にいると楽しいの、ね。
 健吾君の話は、
 色んなところに話が広がっていったり、色んなことが出てきたりして、
 頭の中いっぱい引出しがあるんだなぁって、すごいなぁって、
 いつも思ってた。
 気楽でお馬鹿な話題が多かったけど(ごめんね)、
 健吾君がする真面目な話も好きだった。
 その中で、健吾君の言葉で前向きになれたり、
 「あ、そうか」って気付かされたりしたことがいっぱいあったの。
 それも、とっても素直に。

 落選した時にもらったメールでは、
 とっても素敵な言葉の使い方をする人なんだなって思ったし、
 忘れかけてたことを思い出させてもらいました」

221 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:40:08
「それと健吾君って、最初に会った頃から変わったような気がするのね。
 良い意味で。(どこが?って言われると上手に説明できないけど)
 その、変わっていけるというか、変われる力を持っているというか、
 そういうのがとてもすごいなぁと、かっこいいなぁと、思ったの。
 そして他にもいろいろ…。
 だから、好きになりました」

222 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:40:51
「好きって気持ちに気付いたのは、東京で会った時。
 今まで色々あったから、無意識に気付かないようにしてた気がする。
 でも気付いてしまったから、色々考えたけど、伝えようって決めました。

 従姉弟だから、だからこそ言いました。
 言わないでこの気持ちのまま見ていくほうが、嫌だなって思ったの。

 上手く伝えられているかわからないけど、
 どんなでもいいから、
 健吾君の気持ちを教えてほしいな、です。

 長くなってしまってごめんね。
 おやすみなさい」

223 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:42:40
翌日は夜勤だったから、出勤時間まで時間があり過ぎた。

起きて洗濯に取り掛かった。
チンした折り詰めを無理矢理、腹に入れた。
未開封のDVDを観た。

それでも時間はなくならない。

早く職場に行きたかった。
仕事が始まれば、考えることは仕事のことだけになる。

出勤前に少し寝ておこうとベッドに入った。

…寝れない。

何度も寝返りを打つ。

…ダメだ。

寝酒を飲んだ。

具合悪くなった。

224 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:43:27
結局一睡も出来ずに時間は経った。
必死に歯磨きして酒の臭いを消し、会社に行った。

こういう時に限って仕事は暇。

逃げても無駄。眺めていた天井がそう言った気がした。

225 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:45:53
考えよう。
みんなが笑顔でいられる方法を。

シミュレーションが始まった。

1.恵子ちゃんと付き合う。
   ↓
2.円満に交際が進み、お互い結婚の意志をもつ。
   ↓
3.彼女を親父に会わせる前に、親父と母のこれまでの経緯を話し、
  母(太田家)と親戚関係にあることを親父に言わないよう口止めする。
   ↓
4.結婚。披露宴はガーデンパーティ。

………アホか。

4の前には「両家顔合わせ」があるじゃないか。
その時に恵子ちゃん側の誰かが口を滑らしたらバレるだろ。

なら、

4.田中、太田の両家の人間全てに口止めする。
   ↓
5.結…

………無理だそんなの。

226 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:46:59
大体、
結婚式なんてことになったら親父か母、どちらかは参列できなくなる。

親父は妹の結婚式の時、参列を辞退した。
母に「花嫁の親」としての権利を譲ったのだ。
結果、妹はバージンロードをお父さんと歩いた。

この上、息子の晴れ姿まで見せられないなんて。

いや、俺が誰と結婚しようが、
ふたりが揃って参列することはないんだろうけど。

ええい、もう。

それに口止めが成功したって。
一生、恵子ちゃんにウソをつかせるのか?
田中や太田の人たちに、ワケのわからない約束をずっと守ってもらうのか?
そして親父を、一生だまくらかすのか?

みんなが笑顔でいられる方法?
そんなのありゃしない。


二ヶ月後、俺は恵子ちゃんにメールを送った。

227 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:47:52
「こんばんは。
 元気に過ごしてますか?

 まずはお返事が遅くなってしまったことをお詫びします。

 そして、ごめんなさい。
 俺は恵子ちゃんとお付き合い出来ません。

 あれから色々と考え込んでいました。

 正直な話、俺も恵子ちゃんと会っていると楽しいです。
 俺の一方的な感覚かもしれませんが、
 恵子ちゃんとはウマが合うと感じています。
 打てば響く会話、
 同調し合える価値観、
 何より恵子ちゃんの誠実さにはいつも感嘆していました。
 (いつも馬鹿なことばっかり言って、
  その気持ちは表に出ていなかったかもしれませんが)

 ですから、
 これまでの恵子ちゃんとの関係を恋愛に発展させるのは、
 俺にとって非常に良いことだと思えます。

 しかし俺は、恵子ちゃんを恋愛対象として見ていません。

 女性として見ていないわけではないのです。
 ただ今まであまりにも近いところで接していたから、
 親友としての気持ちしか持てないのです。

 残酷な言い方になって、本当にごめんなさい。
 どうかお身体をお大事に」

228 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:49:56
送信ボタンを押した時、吐き気がした。

二ヶ月も待たせた挙句、なんて返事だ。
こんなに残酷な言い方をする必要があったのだろうか?

だけど親父のことは出せない。
恵子ちゃんに「じゃあ、そのことがなかったら…」なんて思わせるわけには
いかないのだ。

これでいい。
こんな男を美化させる必要はない。

恵子ちゃんとの付き合いはこれで終わってしまうだろう。
それに耐えられるように、俺は強くならねば。

229 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:50:47
一週間後、恵子ちゃんからメールがきた。

「メールありがとう。
 正直、お返事は諦めていました。

 結果は残念ではあったけど、
 でも、健吾君が二ヶ月考えてくれたこと、
 そしてちゃんとお返事をくれたことに、
 今は感謝しています。
 本当にありがとう。

 気持ちを伝えることが出来て良かった。
 言わないときっと私は後悔してた。
 まだちゃんと気持ちの整理がついたとはいえないけど、
 でも、好きになれたことは、うれしかったよ。

 最後にお願いがひとつ。
 これからも健吾君とは今までどおりのお付き合いがしたいです。
 それだけでいいから。
 次に会う時は、従姉として普通に会えるようにするから」

230 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:51:57
複雑な気持ちだった。

嫌われなかったことに「ほっとした」、なんてことはない。
むしろ避けられるほどに嫌われたかった。

物理的な距離は遠いのだから、会おうと算段しなければ、会わないで済む。
一年に一回会うか会わぬかの関係なら、忘れられる日もきっと早く来る。

だが、彼女の言う「今までどおりの付き合い」
それはこれからも一緒に書展に行ったり、一緒に食事したり、
そんなことを意味するのだろう。

「こちらこそ。これからもよろしく!」

返信したメールとは裏腹に、
これからはもっと意識的に彼女を避けなければ、と思った。
彼女を傷つけないように。
彼女に悟られないように。
意識した無意識”で。

231 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:52:41
秋の始め、俺はとりそびれていた夏休みを利用し帰省した。

折り良く、
他県に住んでる妹一家や、妹たちと同じ県で住み働いている義弟も
遅めの夏休みで里帰りしていた。
みんなが揃うのは久しぶりだった。

帰省最終日、みんなで食事に出た。
お父さんの行きつけの店だった。

姪っ子たちにいじられながら、合間合間で酒食を楽しむ。
忙しないが落ち着く。東京では得られない安らぎ。

と、義妹が厨房から男性を連れてきた。
「健吾君は初めて会うよね。今、付き合ってる人です」

聞けばその人とは結婚を前提に同棲も始めており、
お父さんも公認の男性だった。

「はじめまして。これからよろしくお願いします、お兄さん」
俺よりも年上なのに深々と頭を下げる彼。
こそばゆかったが、ふたりの幸せそうな顔に俺の顔も綻んだ。

232 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:53:34
すると義弟が口を開いた。
「俺も結婚します」

彼も同棲している彼女がいた。
会ったことはまだなかったが話だけは聞いていた。

しかも、
「子供、できちゃって(笑)」
とまで言った。

あらら。お兄ちゃん、ちょっとショックよ。

数年前には結婚一番手だったのに、いつのまにやらドンケツだ。
いや、相手もいないんだからスタートラインにすら立ててないじゃないの。

笑顔で動揺してた俺の心中を見透かしたかのように、母が言った。

「とうとう、アンタひとりだね(笑)」

ズッシーン。それを言っちゃあ、おしめぇだよ母ちゃん。

「アレでしょ?おにぃ、結婚する気ないでしょ?」と妹。

「なぜ?」
「なんか、独身で遊んでるのが楽しいって感じ」
「だね。アンタ今、結構充実してるでしょ?」

…お前ら何年、俺の母親と妹やってんだよ。
身内に遊び人と思われてるとは。

その後、みんなが俺の結婚観を代弁してくれた。
ひとっつも当たってなかったが。

233 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:54:17
東京に戻った俺は仕事に打ち込んだ。
というか、打ち込むしかなかった。
張り合いはなかったがヤル気は出した。

ある日、先輩(合コンに誘ってくれた人)に飲みに誘われた。

「お前に会わせたい人がいるんだ」

生ビールで乾杯した後、意味深な目つきで先輩が言った。

「誰です?女のコでも紹介してくれるんですか?(笑)」
「んふふ」

いたずらっ子のような目で先輩は笑った。

234 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:55:09
一時間ほど経った時、先輩の「会わせたい人」が来た。

関口さん、だった。

関口さんとは合コンの後、2〜3ヶ月ほど一緒に飲みに行った。
先輩と一緒だったり、ふたりだけで行ったこともあった。
しかしいつしかお互いに連絡もしなくなり、ここずっと疎遠になっていた。

先輩の隣に座った彼女が、眉を落として挨拶した。頬が赤い。

「お久しぶりです」
「ほんと、久しぶりだね〜」

「あのな」
先輩が俺のジョッキに自分のジョッキをぶつけながら言った。

「俺ら、結婚するんだ」

はぁ、そうですか。

235 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/21(月) 16:56:05
おいおい。会社でも俺ひとりかい。

会社での独身男性もとうとう俺だけとなった。

帰りの電車の中、吊革にもたれながら外の暗闇をじっと見る。
無性にこみ上げてくる孤独感。酔ってるから尚更。

(まぁ、焦っても仕方ないのはわかってるけどさぁ)
(でも焦らないと、お前、次のコト考えないんじゃないの?)
(そうは言っても、こんな不規則な生活じゃ出会いも無いし)
(仕事のせいにすんなよ。気の持ちようだろ)

頭の中で一人で会話しながら、乗り換えのために地下鉄ホームへ。

(出会いなんて、その辺にころがってんじゃないの?)

ちょっとだけ、カッコつけてホームに立ってみた。



【長編】早く結婚してくれ(11)へ続く。
posted by なな at 02:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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