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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(11)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

300 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:28:44
11月。夜勤明け。

携帯の留守電をチェックしたら親父からメッセージが入っていた。
「母さんのことで話がある。連絡をくれ」

大抵は忙しさに託けて電話を返さない俺だったが、
この時のメッセージはなんだか親父が普通じゃない気がした。
しかも親父の口から母のことが出るなんて。

夜、親父に電話した。

「あのな。お前には言ってなかったんだが」

前置きした親父が語った話はひどく俺を動揺させた。

301 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:29:54
「母さんな、俺名義のキャッシュカード持ってるんだ」

「母さん、ブラックリストに引っかかっててな。
 離婚後、母さんに頼まれて、信用金庫のやつ作ったんだ」
「目的は?理由は?」
「亜矢(妹の名だ)の私立高校の学費で生活が苦しいって」
「苦しい?待てよ、あの時は俺も母ちゃんも働いてたから、
 亜矢の学費だってなんとかなってたはずだぞ?
 借金は親父が背負ってくれてたし…」
「俺もそう思った。
 だけど私立は部活の寄付金だのなんやかんやで金がかかるって言われたんだ。
 それに、借金を背負う代わりに、亜矢の養育費はいらないって言われてたから、
 せめてカードぐらいはと思って、な。
 返済は母さんが責任持ってやるって言ってたし、
 現に返済が遅れて俺に督促の連絡が来ることもなかった。
 それにその後、亜矢は私立の短大にも入ったろ。
 だから、亜矢が短大を卒業したらカードも解約するって約束で、
 そのまま持たせてたんだ」

302 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:30:58
釈然としない。嫌な予感もする。
「…それで?」
「ところがな、カードが解約されてなかったんだ」

「この間、俺のアパートに督促状が来てな。二ヶ月分たまってた。
 俺も『まだ解約しないで使い続けてたのか!』って思ったら頭が
 カーッとなってな。
 でも母さんに連絡してアチラの家に迷惑かけるわけにもいかんから、
 直接、信用金庫に電話したんだ。別れた女房が使ってるって言っちまってな」

「それで…親父もブラックリストに入ってしまったのか?」

「いや、きちんと払って解約してくれればそこまでの処置はしないって、
 信用金庫の担当者が約束してくれた。
 それで…悪いがお前に頼みがあるんだ。
 母さんや信用金庫と連絡とって、後の処理をしてくれないか?
 俺は母さんに連絡なんてしたくないし、出来ないし、
 それに今、仕事で名古屋に来てるんだよ。
 抜けられん仕事だから、信用金庫に出向くことが出来ないんだ」

仕方ないか、としか思えなかった。夜勤明けで疲れていたせいもあると
思う。

303 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:31:52
「わかった。やっとく」
「本当にすまん。昔からお前に頼ってばかりで…」

そこで電話が終わればよかった。

「大体、アイツは、」
親父が母に対する愚痴を言い始めた。

離婚から今に至るまで、親父が母のことを悪く言うことはなかった。
初めて聞く、親父の心情。溜め込んでいたのだ。

だが俺にそれを聞いてあげられる余裕なんてなかった。

「やめてくれよ!
 俺は親父と母ちゃんの息子だぞ!?
 そんなこと、聞かせることじゃないだろ!?」

荒々しく携帯の電源を切り、ぶん投げた。

304 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:33:12
翌日、信用金庫に連絡をとった。
既に親父が俺を代理人とする旨を連絡していたため話は早かった。
解約には俺の身分証と、
俺と親父が血縁であることの証明書があれば問題ないとのことだった。

夕方、役所に戸籍抄本をとりに行き、そのまま仕事に向かった。

職場に着くと、仕事を始める前に母に電話した。
夕飯の準備をしていたという母に、すぐ本題を切り出した。

「どういうことだよ?」

努めて口調は抑えた。

「ちょっと待って」
母は慌てた声を出した。別室に移ったようだった。

「お父さんから聞いたの?あれはちょっと振込みを忘れただけ。大丈夫」
「…そういう問題じゃない!!」

305 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:34:13
「別れた旦那のカードを、
 再婚してからも使ってる神経がわからないって、言ってんだよ!!!!」
「………」
「俺もだいぶ貸したよな?あんまり返してもらえてないけど。
 お父さんが家にあんまり金を入れてくれないから、なんて言ってたけど
 本当にそうか?
 そこにお父さん、いるんだろ?俺、お父さんに聞いてもいいか?」

もちろん、そんなことはするつもりは無い。

「それは…やめて。お願い」
母の振り絞った声が、いつも思っていた疑問の答えになった。

「…つまり…そういうことなんだな。
 お父さんが原因じゃなく、自分で勝手に作った借金なんだろ?」
「…うん」

「あんた、病気だよ」

母は黙っていた。

信用金庫に返す金を準備するよう母に言い、電話を切った。
その日の仕事はやたら長く感じた。

306 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:34:54
翌朝、職場を出てすぐに信用金庫に電話した。
これから訪ねる旨を伝え、次に母に待ち合わせの時間をメールする。
その足で新幹線に乗り、今までで一番、気乗りしない帰郷をした。

駅の改札口にいた母が目にとまった。
その姿にますますムカムカした。

母が何か言いかけたが、
俺は黙って母の手から金の入った封筒をひったくった。

信用金庫では責任者らしき年配の男性が俺の応対にあたった。
つつがなく手続きが済んだ後、男性が言った。

「大変ですね。お察しします」

仕事上の言葉だったと思うが、少しありがたかった。

307 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:35:48
また12月がきた。

いつもなら、年末年始に帰郷するのか母から連絡が来るところだが、
今年はない。

当然か、と思っていたら、恵子ちゃんからメールがきた。
「今年は帰ってくるの?久しぶりに健吾君と会ってお酒でも飲みたいな」

避けようと決めてからは俺からメールを送ることはなかった。
恵子ちゃんから来ても、当たり障りのない言葉で2、3行のメールを返すだけ。

この時も、仕事が忙しくて帰れないな〜、風邪ひかないようにね、とだけ返した。

実際、恵子ちゃんのことを抜きにしても、今年は帰りたくない。

わざとスケジュールに仕事を入れ、職場のTVで除夜の鐘を聞いた。

308 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:36:41
2005年。
1月の中頃のことだった。

母と恵子ちゃんからほとんど同時にメールがきた。

母の内容はこうだった。

「お元気ですか?
 去年はひどい思いをさせて、本当にごめんなさい。
 とても反省しています。
 まだ怒っていることでしょう。当然です。

 だけど、それを承知の上でお願いがあるのです。
 2月に英治君(義弟の名)が彼女を連れて帰ってきます。
 彼女の家族とウチの家族の顔合わせをするのです。
 当人たちは結婚式をしないつもりだそうで、
 だからこの顔合わせはとても大事なものです。
 みんな、貴方も同席してくれるのを望んでいます。
 どうか一時だけでもいいので、私への怒りを我慢してもらえませんか?
 勝手なことを言ってごめんなさい」

気持ちは大分落ち着いていたが、まだ母への怒りが消えたとは言い
難かった。もちろん英治君たちは祝ってあげたい。
でも…母の顔を見たらきっと俺は…。

309 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:37:39
悩んでいたら恵子ちゃんからメールが。

「元気?
 2月にまた上野で書展があります。
 今回は入賞しました!
 もちろん今年も行く予定。
 一緒に行ける?
 またこのおのぼりさんを東京見物に連れてってほしいな」

入賞したのか。
よかったなぁ。
うれしくて仕方ないだろうな、恵子ちゃん。
一緒に祝ってあげたいなぁ。

でも。

すぐに返事のメールを送った。

「ごめん。
 その日は仕事なんだよね。
 忙しい時期だから抜けられないんだ。
 入賞おめでとう。
 君はやればできる子だと思ってたぞ(笑)」

仕事は暇だった。スケジュールのやりくりはいくらでも出来た。

310 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:38:22
恵子ちゃんからもすぐに返事が来た。

「そっか〜残念。

 私は健吾君の感想が一番好き。
 偉い先生とか書をやっている人とかから色んな感想や意見をもらうけど、
 書をやっていない健吾君からもらえる感想はとっても素直で、
 ストレートに私に入ってくるの。
 私の作品が書をやっていない人の心に残って、
 書って良いね〜って思ってもらえてる、そんな気持ちになれるの。

 だから本当に残念。
 お仕事がんばってね。
 無理して身体壊さないようにね!」

311 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:39:04
10分後に2通目が来た。

「話は変わりますが、工藤 直子って憶えてる?
 健吾君は観てないけど、
 健吾君が転勤するちょっと前の書展で
 私が作品の題材にした「花」という詩を書いた人。
 その人の本で私のお気に入りのがあるのね。
 それ、ぜひ健吾君に読んでほしいので送るね。プレゼント。
 本当は会って直接渡したかったけど。
 気に入ってもらえるといいな」

312 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:39:52
「花」
本当は俺、あの作品観たんだよ、恵子ちゃん。

あれを観て、俺は母との喧嘩別れを思い直し、
家族を二度と切り捨てないって、誓ったんだ。

恥ずかしくて、そんなこと君には話してないけど。

恵子ちゃんの字が頭に蘇ってきた。

どんなことがあっても家族は家族なのだ。

俺は母に「出席する」とメールをした。

313 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:40:58
ホテルで食事をしながら、両家の顔合わせが執り行われた。

こちらは亜矢の家族も同席し、ちょっとした大人数だったが、
彼女側もおじいちゃんやおばあちゃん、兄姉の家族などが揃い、
大変な賑わいとなった。

(こうして、家族ってのは増えていくんだな)

みんなに酌をしながら、そう思った。

314 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:41:42
会もお開きになり、お父さんが俺を駅まで車で送ってくれた。
母も同乗していた。

駅で一旦、俺と母を下ろし、お父さんは車を駐車場に置きに行った。

母が口を開いた。
「今日は本当にありがとう。ごめんね」

今日は会ってからあまり会話をしてなかった。

足元を見ながら話す母に、俺も言った。

「ひとつだけ、本当のことを話してよ」
「うん」
「もう、借金は無いんだね?大丈夫なんだね?」
「うん。大丈夫」
「その言葉、信じるからね?」
「うん。本当にごめんなさい」

「ならいいよ。忘れようぜい(笑)」
本心から笑えたわけではなかったが、それでも少しは軽くなった。

母は相変わらず下を見ながら、また「ごめんね」と言った。

315 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:42:35
数日後、恵子ちゃんから荷物が届いた。

中にはチョコと本が入っていた。

本来の意味として受け取りたかったチョコを頬張りながら、
本を読み始めた。

工藤 直子 「ともだちは海のにおい

それはイルカとクジラの友情物語だった。
どこかほのぼのとさせる挿絵と、飾らない文章がとてもいい。

(確かに恵子ちゃんが好みそうだ)

読んでいたら恵子ちゃんの顔が浮かんできた。
読み進めたら、ますますその顔が増えた。

だめだ。

1/3も読まないうちに、本を閉じた。

そしてそれ以来、一度もこの本を開いたことはない。

316 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:43:30
2,3日後、
ホワイトデーの意味で俺も本を贈った。

大森 裕子というイラストレーターの書いた絵本。
よこしまくん」と「よこしまくんとピンクちゃん」という2冊。

見栄っ張りで、ヘソ曲がりで、ぶっきら棒で、格好つけなフェレットが
主人公で、ピンクちゃんというガールフレンドがいる。
大人が読んで思わず「くすっ」となる絵本だ。
「ともだちは〜」ほど深いものはないが、俺はとても気に入っていた。

317 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:44:18
恵子ちゃんからのお礼のメールは喜んでいた。

「本、ありがとー!
 よこしまくん、すごくいい!
 かわいくて、ほんわかしてて。
 『けっ』とか『ふんっ』とか言ってるひねくれモノなんだけど、
 素直じゃないな〜コイツ♪って感じで、どこか憎めない。
 こんな人、いるよねぇ…あ、いたいた!横浜にひとり(笑)
 ピンクちゃんとのコンビもいいね!
 なんだかんだピンクちゃんに言っても、
 ちゃーんとピンクちゃんのこと大事に思ってて、
 ピンクちゃんも、よこしまくんのことすごいなーって思ってて。
 なんか微笑ましい。
 ホントにありがとう!大事にします」

ああ…そういや俺、似てるかもな。
よこしまくんほど、ハッピーじゃないけど。



【長編】早く結婚してくれ(12)へ続く。
posted by なな at 02:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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