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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(12)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

318 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:45:18
それは3月に入ってすぐの、日曜日の朝のことだった。

夜勤明けでマンションに帰ると、
エントランスホールの郵便受けの前に、
長髪のデカい男が立っていた。
そいつの足元には大きな旅行用トランク。
なにやら携帯で話していた。

(マンションの住人じゃないな)

俺の住んでるマンションは、
エントランスホールにあるインターフォンの操作盤に鍵をささないと
エレベーターが動かないようになっていた。
部外者が2階以上に上がるには、インターフォンで住人に呼びかけ、
エレベーターを動かしてもらわなければいけない。

(邪魔くせーな)

そいつをすり抜けるようにして郵便受けに手を伸ばしたら、
そいつが声を上げた。

「あ」

319 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:46:25
なんだ?と思い、そいつを見た。目が合った。

「来た。帰ってきた」

電話の相手に言っているようだった。帰ってきた?俺のことか?

「おお、大塚!」

声を聞いてようやくわかった。
高校時代の友人、辻田 大だった。

「大か!?…なんで、ここに」
「おお!ほれっ」

大が携帯を俺に差し出した。

「大塚、おひさ〜!」

電話の相手は三浦 勝だった。こいつも高校の時の友人だ。

すぐに俺から携帯を取り返した大は、
「ありがとな!じゃな!」
と三浦に言い、電話を切ってしまった。

あまりに突然で二の句が告げずにいる俺に、大が言った。

「とにかく部屋に入れろ。話はそれからそれから」

言われるまま部屋に案内した。


320 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:47:27
不思議な風景だ。大が横浜の、俺の部屋にいる。

俺はコイツが大好きだった。

高校時代、
俺は大と三浦、そして木島 周平、河相 真子という友人たちとバンドを
組んでいた。
世は空前のバンドブームで、
河相 真子以外の4人は女の子にモテたいがための結成だった。
俺以外の4人は同じ高校で、
中学の時から大と友達だった俺が後から誘われた格好だった。

高1の終わりから2年間バンドは続いたが、高校卒業と同時に解散した。

卒業後、俺と三浦は社会に出、周平と真子は東京の大学に進学し、
大は「ビッグになるぜい(笑)」と笑いながら、
なんとイギリスに行ってしまった。
ベーシストだった彼は、その道でメシを食っていこうとしていたのだ。

それ以来の再会だった。


321 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:49:14
断りもせずに冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出す大。
俺にも差し出し、缶をぶつけてきた。

「ほい、おひさしぶり」

相変わらずなヤツだ。
中学の国語の授業で「豪放磊落」という言葉を習った時、コイツの顔が
浮かんだ。今も変わっていない。なんだかうれしかった。

「おい、飲みに行こうぜ」

ビールも飲み干していないうちから、大が言った。

「アホか。まだ11時だぞ。それに俺、夜勤明けなんだ。少し寝かせろ」
「なんだ、仕事明けか。私服だから、てっきり朝帰りかと思った」
「(笑)土日はスーツ着ていかなくていいんだ」
「あ、そ。なぁ行こうぜ、飲み。
 横浜なら、昼間からやってるトコあるだろ?まして日曜日だし」
「勘弁しろって。行ったら潰れちまうよ。俺が酒弱いの、憶えてるだろ?」

高校の時、大とはよく飲んでいた。

「OKOK。んじゃ俺も寝るわ」
「それはそうと、どうして帰ってきたんだ?なんで俺んとこに来た?」

聞きたいことは山ほどあった。

「話は夜な。寝ろ寝ろ」

こうしてコイツに振り回されるのも高校以来だった。悪い気はしない。


322 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:50:12
夜7時。寝すぎた。
しかし大はまだイビキをかいていた。

「おい、起きろ」

大を叩き起こし、外に連れ出した。地下鉄に乗る。

吊革が大の胸元で揺れていた。
190cmあるコイツと並ぶとまるで大人と子供だ。

「地元にいた時、三浦からお前の様子は聞いてたけど、仕事は順調なのか?」
「当然」

いつでも自信家なコイツが本当に羨ましい。
しかし現に大の言ってることは真実で、
4年ほど前、イギリスでは割とメジャーなバックバンドに入ったと、
三浦から聞かされていた。
俺もそのCDは何枚か持っている。


323 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:51:47
「それで、今度は日本で活動するのか?」
「いや、用があって帰ってきたんだ。すぐまたあっちに戻る」
「用って?」
「俺のばあちゃん、憶えてるか?こないだ死んだんだ」

大は幼い頃に両親を亡くし、祖母と二人暮しの生活を送っていた。
こんな豪気な大も、日本を離れる時、祖母の心配だけはしていたが、
祖母は元気に大を見送った。
俺たちバンドメンバーも一緒に空港まで見送りに行ったのだが、
大がいなくなることよりも、その祖母の姿に涙が出てしまった。


324 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:52:37
「そか。大変だったな」
「位牌持ってきてるから、後で拝んでやってくれ(笑)」
「位牌を持ってきてる…?」
「実家、処分するんだ。
 もう誰も住むやついないしな。手続きは済ませてきた。
 ついでにお前や三浦に会っていこうと思ってさ。
 お前の住んでたアパートに行ったけど、もう別の人間が住んでてよ。
 んで、三浦のところに行って聞いたんだ。お前がこっちにいるって。
 横浜なんて来たことなかったから、だいぶ迷ったわ(笑)」
「それで朝、三浦と話してたのか(笑)」
「うん。つーか三浦に電話するのも四苦八苦だったんだぜ(笑)。
 日本の携帯電話の使い方って、イギリスと微妙に違うんだよ。
 これ空港で借りてきたやつだからさ」
「なるほどな。なら三浦に悪いことしたな。
 こっち来てから初めてアイツと喋ったのに、誰かさんに電話切られちまって(笑)」
「三浦なんてどうでもいいんだよ(笑)
 お前は会おうと思えばいつでも会えるんだから。
 それより俺との再会、大事にしろよ?(笑)
 もう一生会えないかもしれないぞ」
「お前、もう日本に帰ってくる気はないんか?」
「ん。それに今度、アメリカに移るんだ。今のバンド抜けて」
「? 今のバンド、あんまり良くないのか?
 仕事の依頼もバンバン来てるらしいって、三浦も言ってたぞ。
 勿体ないじゃん」


325 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:53:25
大が俺の言葉を遮った。

「それはそうと…
 おい、お前まさかハードロックカフェに連れてくつもりじゃないだろな?
 知ってんぞ、横浜にもあるって。
 やめてくれよ、アッチで行き飽きてんだ(笑)」

まさにそのつもりだったからドキッとした。

「違うわい。ほら、降りるぞ」

慌てて関内で降り、行き着けの店に行き先を変更した。


326 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:54:16
和食の店に連れてった。

「それほど、日本食に飢えてるワケじゃないんだがな(笑)」
「うるさい。文句言うな」

そうは言っても刺身や日本酒に、大は喜んでいた。

「さっきの話。アメリカって、なんでだ?」
「もっかい勉強し直そうと思ってさ。アングラから再スタートだ(笑)」
「メジャーCDにもなってるってのに、なぁ。惜しくねーか?」
「まだまだよ、俺の腕は」
「ん?イギリス人に『謙虚』って言葉を学んだんか?(笑)」
「(笑)たまたま以前のライブで知り合ったプロモーターにアメリカ行き
 を勧められてさ。
 費用から住むところから、全て面倒見てくれるってんだ。
 少し行き詰まってたところだったから、世話になることにした」

目をキラキラ輝かせて未来を語る、
なんてことはこの三十路を越えた男にはなかったが、
忙しく箸とお猪口を動かしながら話すその声は弾んでいた。


327 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:55:00
「あ、それでな。木曜日まで泊まるからな」

事も無げに言いやがった。

「すぐ帰らなくていいのか?つーか、帰れ(笑)」
「(笑)見納めしときたいんだよ、日本の」
「仕方ねぇなぁ」
「宿泊費は出さんぞ」
「出せバカ(笑)」

ふたりともグデングデンになって家に帰り、
それでも祖母の位牌の前ではふたり並んで手を合わせ、寝た。


328 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:56:04
翌朝8時。
起きると大が床に寝ていた。
ふたりとも昨日の服のまま。
たしかふたり揃ってベッドに倒れこんだはず。
俺はかろうじてベッドに寝ていた。

(ズリ落ちたか、大)

なんだかニヤけてしまった。
この図体のデカい男とこれからちょっとの間、一緒に暮らすのだ。

俺は3日間だけの同居人に毛布と合鍵を被せ、
静かに身支度を整えて会社に向かった。

電車の中でふと思った。

(10年以上会ってなかったのに、昨日はすんなり話せたな)

高校時代の友人は一生モンだと、誰かが言っていた。
こういうことを言うのだろうか。


329 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:57:00
その日の仕事は日勤だけだったので、夜8時には家に帰り着いた。

(なにワクワクしてんだ(笑)新婚さんかよ)

ドアを開ける時、やたら可笑しくなった。
そしてドアを開けたら、笑い転げてしまった。

エプロン姿の大が立っていた。

「なんだよ!?その姿!!」
「メシぐらい作ってやろうかと思ってよ。あ、この姿はウケ狙いだ(笑)」

190cmの長身にまるで合っていないサイズだった。

「それよか、お前んち最低!包丁もフライパンもねーじゃねーか!」
「仕事から帰ってきたら作る気力なんかないんだよ。
 一人暮らしだから作る量も難しいし」
「俺はあっちでも自炊してたぞ。ちゃんと全部平らげてたしな」
「お前とは食える量が違うんだよ」

台所に行ってみると、
包丁やらまな板やら鍋やらが、出来上がった料理と一緒に並んでいた。

「宿泊費だ。とっとけ」

料理は美味かった。見事なもんだ。味噌汁まで出された。


330 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 11:57:48
食い終わると待ってましたとばかりに大が言った。

「おい、カラオケ行こうぜ。久しぶりに歌聴かせろよ」

バンド時代、俺はボーカルを担当していた。
楽器なんてひとつも出来なかったから。

「すげぇな、今時のカラオケって」

近所のカラオケ屋に連れて行った。大は大はしゃぎだった。
イギリスにもカラオケはあるそうだが、機材がまるで違うらしい。
採点システムに感動していた。

大は黙って俺の歌を聴いていた。
冷やかしもしなければ合いの手すら入れない。
およそ同僚と来る時とは雰囲気が違う。なんだか照れた。

「相変わらず聴かせるじゃねぇか」
「プロに言われるとうれしいな(笑)
 世話になってるからって、世辞を言う必要はねぇぞ(笑)」
「いや、上手いよ」

大の顔は真剣だった。
普段はふざけたヤツだが、こと音楽のことになると顔つきが変わるようだ。
これがプロってものかと感心した。

大の選曲は洋楽オンリーだった。
あまり上手くはない。
ベースを持つと天下一品なんだけどなぁ。
ギャップに笑った。



【長編】早く結婚してくれ(13)へ続く。
posted by なな at 02:05 | Comment(0) | TrackBack(1) | 恋愛サロン
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