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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(14)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

668 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:31:35
ご無沙汰しております。1です。
五ヶ月もの間このスレッドを放置してしまい、本当に申し訳ありませんでした。
非常に遅れ馳せながら、続きをアップさせていただきます。
これが最後になります。
とても長い文章となっておりますがどうかご容赦ください。

また、最後に文章をアップした昨年11月から本日に至るまでの経緯を
後ほどお話しさせていただきます。
今更ですみません。

669 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:33:42
大が去って3週間。
3月も終わりを告げた時だった。

俺は故郷への出張を命じられた。
仕事の内容は新入社員への研修。日程は一週間。

研修開始日の前日夜、俺は故郷に先乗りした。
前もって太田家には出張のことを連絡していたので
お父さんは太田家への滞在を勧めてくれたが、
連日、同僚との飲み会が予想されたため、
俺は迷惑をかけまいとお父さんの申し出を辞退していた。

会社のとってくれたホテルに、俺は苦笑した。
そこは三年前のクリスマスイブに、芽衣子さんと泊まるはずだったホテル。
さすがに同じ部屋ではなかったけれど、窓から見える夜景は変わらなかった。

一瞬よぎるほろ苦い思い出。

(思い出…になったなぁ)

缶ビール片手に、しばらく夜景を眺めた。



翌日。
古巣である事務所に出勤すると、懐かしい顔が俺を出迎えた。
転勤前によくパートナーを組んでいた後輩・友枝だった。

「お久しぶりです!
今日は俺が大塚さんのアシスタントですよぉ。凸凹コンビ復活!!(笑)」

ずんぐりむっくりとした体躯に、人懐っこい笑顔。
男の俺から見ても可愛らしく感じる友枝は、少しも変わっていなかった。

いや、少しお洒落になったかな。
趣味の良いワイシャツとネクタイが似合っていた。

670 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:35:11
研修は午後から始まった。

みんなお揃いかと思えるような、
色も形も定番のリクルートスーツに身を包んだ初々しい新入社員たち。
中途採用で入社した俺の目に、彼らがとても眩しかった。

研修はとにかく忙しかった。
しかし友枝のサポートでそつ無く進行することができた。
昔はちょっと頼りない男だったが、この三年で見違えるように成長していた。
所作の全てに自信が覗える。
頼もしくもあり、ちょっとだけさみしくもあった。

無事に初日を終え、後片付けをしていると友枝が言った。

「大塚さん。今日この後、どうします?」
「んー。さすがに疲れたよ。帰る」
「ちょっと付き合っていただけませんか?」
「飲むのかぁ?やだよお前、うわばみなんだもん(笑)」
「そんなこと言わず(笑)お話、というかご報告があるんです」
「なんだ?」

エヘヘ、と意味深な笑みで友枝は俺の問いをかわした。
妙に気になった俺は、彼の誘いに応じた。


671 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:37:11
連れて行かれたのはとても洒落た店だった。
赤ちょうちんがステータスだった友枝だけに、意外で驚いた。

「こんな店ができたんだなぁ。というかお前、よく知ってたな(笑)」
「エヘヘ」

またあの意味深な笑いだ。

「この店、彼女から教えてもらったんです」

驚きの連続だった。
三年前まで『彼女いない歴=年齢』だった友枝。
とても嬉しそうだ。俺も嬉しかった。

「やったなおい!彼女できたんかぁ」
「はい!しかも俺、結婚します!!」

おいおい、まだ驚かす気か、友枝。

「うわぁ、おめでと!…で、相手は?」
「大塚さん、おぼえてますかね?○×社の野田 芽衣子」

驚くにもほどがあった。


672 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:38:14
「式の日取りとか最近決まったばかりで、まだ会社の誰にも言ってないんです。
 それにまず、大塚さんに報告したくて」

前置きをした友枝が、こぼれる笑顔で話を続けた。

俺と芽衣子さんの関係を知っていたのは社内では東京の先輩だけ。
先輩は口の堅い人だったから、友枝は知らないはず。
俺は平静を装った。

付き合い始めたのは去年の6月だという。
以来、順調に時を重ね、半年後のクリスマスにプロポーズしたそうだ。

はしゃぎながら芽衣子さんとの惚気話に夢中になる友枝。
いちいち頷きながら友枝の話に耳を傾ける俺。
ふたりとも、頼んだ酒や料理にほとんど手をつけなかった。

早くホテルに帰って頭を整理したかったが、
無邪気な友枝の顔を見ていたらいつしか帰る気も失せ、
俺は誘われるまま2軒目の店へとついて行った。
転勤前によく友枝と通ったバーだった。


673 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:39:08
俺のことを覚えていてくれたバーテンは、
あの頃いつも飲んでいた酒を用意してくれた。

「あらためて…おめでとう」

友枝のグラスにカチンと当てると、なんと友枝が泣き出した。

「な、なんだ!?どした??」

狼狽し、友枝の背中を摩る。

「い、いや、すんません。うれしいんス。うれしいんス」

ワイシャツの袖で、友枝は何度も目を擦った。

「大塚さんのっ、“ありがとう”がっ、うれしいんスっ」

可愛いヤツ。
こんなに無垢なヤツもいまどきいないだろう。


674 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:40:08
2杯目を注文した時は友枝も落ち着きを取り戻していた。
仕事でも見たことのない、至極真面目な表情で友枝が語り出す。

「実は彼女と付き合うことになる前、俺、一回告白したことがあるんです」
「…いつ?」
「一昨年の7月くらいでしたかね」

俺と芽衣子さんの交際が終わった頃だ。

「そん時は『好きな人がいるから』って、断られたんです」

「………」

「でも俺、彼女のことが、初めて会った時から好きだったから、
 諦められなくて、ずっと、想い続けてたんです」

知らなかった。
そんなにも深く、長く、友枝が芽衣子さんのことを想っていたなんて。

「彼女はいつも寂しそうでした。
 その顔を見るたび、
 好きな人とうまくいってないんだなって、俺は悲しくなりました」

胸にチクリと、何かが刺さる。

「だから俺、彼女の相談役になろうって、思って…
 …あ、でも俺っ、別に変な下心は無かったっスよ!?
 そんなんじゃなくて、あの、」

…なんていいヤツなんだろう、こいつは。

あさっての方向を見ているバーテンが、ウンウンと頷いている。
俺たち以外に客はない。

アンタもそう感じたんだね、バーテンさん。


675 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:41:20
「それから一ヶ月に一回、彼女を食事に誘ったんです。
 俺、見た目こんなだし、嫌がられるかなって、
 ビクビクしながら彼女を誘ったんですけど、彼女は笑顔で応じてくれました。
 ただ…俺、店のことなんて詳しくなかったから、
 いつも彼女に店を選んでもらってましたけど(笑)
 …食事に誘ってるのは俺なのに…かっこわるかったなぁ(笑)」

みるみる友枝のグラスが空になっていく。
俺はまだ一杯目だった。

「相談役って言っても、彼女はいつも多くは語ってくれませんでした。
 でも帰る時はいつでも『ありがとう』って、すごく綺麗な笑顔で言ってくれて。
 毎回ドキドキしてました」

初めて友枝の口から聞けた“女性の話”。
始めはその相手が芽衣子さんであることに驚きと戸惑いをおぼえたけれど、
友枝の素直な言葉にいつしか俺は引き込まれていた。

「そしたら去年の6月、
 彼女のほうから『付き合ってください』って、言われたんス。
 俺ビックリして、『いいの?』って何回も聞いてしまいました」

よかったなぁ。

素直にそう思えた。


676 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:43:07
ふと、バーテンが俺たちにグラスを差し出した。

「これ、良かったら召し上がってください。お祝いです」

「やっぱり聞いてましたね(笑)」

「はい(笑)」

ばつの悪そうに苦笑しながらバーテンが言った。

「ウチのオリジナルです。
 本来はカップルの方にお出ししているんですが」

桃の香りと、微かな酸味。
シャンパンでアップされているそのカクテルは、この季節にピッタリな感じだった。

「なんという名前なんです?」

「“両想い”です。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございますッ。ありがとうございますッ」

友枝がまた泣き出した。


677 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:43:59
友枝を宥め、店を出た。
千鳥足のくせに、友枝はホテルまで送ると言ってきかず、
結局、肩を貸しながらホテルまで歩いた。

「ここでいいよ。ありがとな。気をつけて帰れよ」
「はい!ありがとうございました」

気になってたことを聞いた。

「…そのワイシャツとかネクタイとか、さ」
「はい?」
「野田さんの見立てかい?」
「はい!!」

酔ってるからか、照れ臭いからか、
真っ赤な顔して元気に返事する友枝を、なんだか無性に抱きしめてやりたくなった。

のっそりと踵を返した友枝がタクシーに乗り込むのを見届け、俺は部屋へと上がった。

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを掴んだまま、ベッドへと倒れこむ。
夢も見ずに、深く眠った。


678 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:45:36
それからの一週間は、夜毎、宴会に興じた。
太田家にも一度顔を出したが、それ以外は友枝や他の同僚たちと
飲み歩いた。
そして研修最終日の夜を迎えた。

「大塚さんのお別れ会をしますから!」

友枝の音頭で事務所の社員全員が集まり、宴となった。
いい加減、二日酔いなのか何日酔いなのかわからぬほど酒浸りの身体に
なっていたが、彼らの気持ちに付き合った。

「2軒目、カラオケ行きます!逃がしませんよぉ(笑)」

ニヤリとした友枝に、俺も観念の笑みを向けた。

珍しいことにカラオケ屋には年配の社員も参加した。
若手だけかと思っていたのに、事務所のほぼ全員が顔を揃えている。

「? 珍しいな。部長までいるじゃん?」
「俺が誘ったんです」

友枝の鼻息が荒い。

「ふーん?」

その答えは一時間後に判明した。

「はい!みなさん!聞いてください!!」

最高潮を迎えた部屋の喧騒を友枝が制した。

「わたくし友枝、このたび結婚することとなりました!」

部屋中に『?』マークが飛び交った後、友枝は質問攻めにあった。

「誰と!?誰と!?」

当然の質問に、友枝が屈託の無い笑顔で答えた。

「実は…これからココに来ます!」



!!!!



なんてこった。


679 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:46:42
今この空間で一番ドキドキしているのは俺だ。間違いない。

やってくれるな、友枝。

ドキドキは何分経っても収まらず、
心の準備はいつまでも出来なかった。

20分後、芽衣子さんは来た。

彼女がドアを開けて入ってきた時、
顔を上げられずにいた俺の左右の耳に、
とてつもない喚声が飛び込んできた。

男性社員からは悲鳴が。女性社員からは歓声が。

それからはカラオケどころではなかった。
みんなが寄り添うふたりに群がった。

恥ずかしげに俯く芽衣子さん。

今まで見たこともないくらい、胸を張っている友枝。

さっきまで俺と一緒にあずさ2号を歌っていた男が、その時よりも数倍
輝いていた。

彼らの姿をぼーっと眺めながら、
俺は芽衣子さんと付き合うことになったあの夜を思い出していた。


680 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:47:38
まともに芽衣子さんと会話もできないまま、2次会はお開きとなった。

またもヘベレケになった友枝が俺をホテルまで送ると言う。
そして芽衣子さんも。
3人、肩を並べて歩いた。

だがホテルに着いても友枝は俺を放してくれなかった。
結局、友枝と芽衣子さんは部屋の前までついてきた。

「芽衣子ちゃん!俺ねぇ、大塚さん…だ〜い好き!」

愚にもつかないことを叫びながら、友枝が俺に抱きついてきた。

「俺も友枝、だ〜い好き!」

言いながら友枝を抱き止めた。

互いに抱きしめ合う30男たちを、芽衣子さんは微笑みながら見ている。

ふっ、と友枝が軽くなった。そして重くなった。
ヘナヘナと、俺の身体を舐めるように崩れ落ちて行く。
床に大の字になった友枝を見、そして芽衣子さんを見やった。

芽衣子さんと目が合った。今日初めて芽衣子さんと交わす視線だった。

一瞬の後、どちらともなく、ぷっと笑った。

「ひとまず部屋で寝かせよう」

俺と芽衣子さんは笑いながら友枝を抱え上げた。

「ほら、しっかり(笑)」

そう言って友枝の右腕を肩に抱え込んだ芽衣子さんの目は、
なんとも言えない優しさに満ちていた。
俺は慌てて視線を外し、友枝の左腕で顔を隠した。


681 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:48:48
ベッドに友枝を寝かせると、静寂が部屋を包んだ。

「元気だった?」

芽衣子さんが切り出してくれた。

「うん」

なんとか芽衣子さんに顔を向けた。

「このホテル…だったんだよね?」

「そうだったね(笑)」

あの日を思い出す。

と、大いびきの友枝に、ふたりの視線が向いた。

「ラウンジに…行くかい?」

「うん(笑)」

ふたりでそっと部屋を抜け出した時、
なぜだか悪いことでもしているかのような錯覚に陥った。

「ずっと…ちゃんと話をしたいと思ってたの」

軽めのカクテルを一口含みながら、芽衣子さんが言った。

「そう…なの?」

同じものを俺も注文した。
いつもなら飲まないであろう、甘ったるいカクテル。
しかしそれは渇いていた喉にとても優しかった。

「うん。でもね…」

ふたりともバーテンの振るシェイカーを眺めていた。

「もう…いいの。もう、いいんだ」

自分の言葉に、ウン、とひとつ頷いて芽衣子さんは笑った。
俺も芽衣子さんに笑みを向けた。

「招待状、もらえるよね?」

そう言った俺の顔を、芽衣子さんがじっと見つめる。
潤んだ瞳に柔らかな光を灯し、芽衣子さんは言った。

「…ありがとう」

その言葉で、胸に残っていた最後の何かが、すーっと消えた気がした。

俺も…ありがとう。


682 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:49:48
部屋に戻ると、友枝は本格的な眠りに突入していた。

「今日はこのまま、旦那さんは預かるよ(笑)」

「ごめんね。ダーリンをよろしく(笑)」

ロビーまで見送ることにした。
エレベーターの中、芽衣子さんが小さな声で言った。

「健吾君」

「うん?」

「今も…従姉さんのこと、好き?」

「うん」

ためらいもなく、素直に言えた。

微笑みながら、芽衣子さんは去っていった。


683 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:50:54
部屋に戻り、友枝のネクタイを緩めてやる。
しばらくその寝顔を見つめた。

(こいつは…勝ち取ったんだ)

“勝ち取る”という言葉に、改めて俺は自分が持つ劣等感を意識した。
だがそれは、友枝に芽衣子さんをとられた…などというものではない。

友枝が勝ち取ったもの。

しあわせ。

ひたむきに相手のことだけを想い、努力してきた友枝。
それを得るのは当然だった。

俺は…彼ほど努力しただろうか?

否。

いつもウジウジと後先ばかり考えていた。
親父と母の心情を障害と見なしていた。
あきらめる道だけをひたすら選び、“忍ぶ恋”などというものに酔っていた。

『どうにかするんなら、何かぶっこわさないと、な』

大の言葉が頭に浮かぶ。

俺が事を起こせば、壊れるのは親父や母の心だと思っていた。

だが本当に壊れるのは、いや、壊さなければいけないのは、俺の臆病さなのだ。



(ありがとな、ダーリン)

友枝の頭を、クシャクシャに撫でた。




【長編】早く結婚してくれ(15)へ続く。
posted by なな at 02:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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