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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(15)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

684 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:51:41
東京に帰り、いつもと変わらぬ日常に戻った俺の元にメールが届いた。

恵子ちゃんからだった。

『ゴールデンウィークに親戚一同集まってバーベキューします。
 健吾君、来れるかな? ていうか、絶対来ーい!(笑)』

文字がやたら愛しい。

返信。

『喜んで参加させていただきます』

断る気はなかった。

一歩、前へ。

俺は歩ける気がした。

685 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:52:38
GW。
たった一日だけだが休暇をとった俺は、心の急くまま新幹線に乗った。

早く行きたい。バーベキューに行きたい。
いや、バーベキューなんてどうでもいいんだ、ホントは。

駅には恵子ちゃんが迎えに来てくれていた。

およそ一年ぶりに見る恵子ちゃんは…可愛かった。とても。

恵子ちゃんの実家からほど近い、山裾の川原がバーベキューの場所だった。
すでに俺以外はみんな顔を揃えていた。
まずは一杯、と生ビールを手渡される。
だが手厚い歓待もほんの束の間、

「健吾君、手伝ってぇ〜」

調理部隊からお声がかかった。

転勤してからは年に1度会うか会わないかの親戚たちだったが、
この頃になるとすっかり俺も彼らと遠慮会釈のない関係を築けていた。
ほいほいと軽く腰を上げ、一員であることを喜ぶ。




…などという気分は、一時間で吹っ飛んだ。

忙しい!
次から次へと焼き物に勤しむ俺。

うがー
何しに来たんだ俺は。
恵子ちゃんと話してぇ。

しかしそんなレクレーションはとんと巡ってこない。

たまに恵子ちゃんが給仕として出来上がった料理をとりに来たが、
汗だくになって調理している俺に、

「ご苦労さま(爆笑)」

一言声をかけ、すぐに女性陣の輪の中に帰っていった。
忙しなく手を動かしながら、心の中で指を銜えて“女の園”を眺めた。


686 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:53:33
午後3時を回った頃、救いの手が差し伸べられた。

「健吾君、少し休みなよ」

恵子ちゃんの父・守さんだった。
これ幸いとばかりに義弟に調理を押し付け、守さんから生ビールを受け取る。

そのままなんとなく守さんとツーショットになった。
実のところ守さんとはこれまであまり話したことがない。

親戚が集まる席といえば決まって酒席で、
俺は酒豪ぞろいの彼らといつも馬鹿騒ぎに興じてきたのだが、
守さんは下戸のため、正直、話すのが辛かった。
素面の相手と酔っぱらいではノリが違う。
それに守さんは真面目な人だったからちょっと近づきがたくもあった。

しかし親戚連中に強引に勧められたのか、
今日はちょっとだけ守さんも酒を楽しんでいたようだ。
顔が少し上気している。

お互い酒が入れば自然と会話も弾む。
話の内容なんて他愛のないものだったとおもうが、
小一時間も経った頃、

「ようし、もう“健吾君”なんて他人行儀な呼び方はしない。
 健吾!って呼ぶからね」

そう言われた俺は守さんと打ち解けたような気がした。


687 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:54:48
そのうち、酔っぱらった守さんは高鼾で寝てしまった。
ブルーシートに大の字になっている守さんに、恵子ちゃんが上着をかける。
そして俺に向き直って言った。

「ちょっと散歩でもしない?森の中に、良いトコあるんだ」

どこへでも行きますとも。



「お父さん、あんなになっちゃうなんてなぁ(笑)」

恵子ちゃんの歩幅に合わせながら、森の中の小道を歩く。

「ごめん。ちょっと調子にのって酒勧めすぎたかな?」
「ううん(笑)たまにはいいんじゃないかな。大した量でもないし」

…たしかに。ビールを紙コップ3杯程度だった。

「きっと嬉しかったの、お父さん」
「俺と話したことが?」
「そう。ウチは私とお姉ちゃんとお母さんで女だらけでしょ?
 だから男同士の会話っていうのに飢えてるんだと思う」
「なるほどね」
「それにね。お父さん、健吾君のことは前から気にしてたの」
「なんで??」
「さあ(笑)
 昔、私と健吾君でよく飲みに行ってた時、実家に帰るたびに
 健吾君のこと聞かれた」
「…で、なんて答えたん?」
「変な人、って(笑)」
「あっそ(笑)」


688 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:55:57
木立が開け、目の前に小さな滝壺が現れた。

「到着」
「おおっ、いいねぇ」
「私のお気に入りなの、ここ。
 小さな滝だから、森の静けさを壊さないんだ」

滝壺のほとりにあった大きな岩塊にふたりで腰掛けた。
小さなサンダルを脱ぎ、恵子ちゃんは素足を水の中へと入れた。

ぱちゃぱちゃぱちゃ

いたずらに水を掻く白い足が、戯れる二匹の魚のようだ。

ふたりとも何も言わず、ただ水面と木々と空を眺めた。

恵子ちゃんがその時、何を考えていたのかはわからない。
だが俺は、この心地良い静寂を乱してよいものか、考えていた。

静寂を打ち破る俺の一言。
それはずっと言いたかった一言。
そして今にも言いそうになる一言。

だがここに至っても、俺はまだ踏ん切りをつけられずにいた。
押し黙っていたら、恵子ちゃんが俺の顔を覗き込んできた。

「なに考えてるの(笑)」

驚き、怯み、
動揺が愚かな言葉を紡いだ。

「あ…あのね、恵子ちゃん」
「うん?」

「彼氏、できた?」


689 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:57:05
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。

自分に呆れた。
呆れてものが言えない。
いや、実際、次の言葉が出て来なかったのだが。

恵子ちゃんの顔が強張った。俺を覗き込むのをやめた。

「そんなこと…健吾君に聞かれたくない」

「そ、そっか」

小さな滝がナイアガラにでもなった気がした。

「そろそろ戻ろっか」

恵子ちゃんはいつもの声音に戻っていた。

俺の右横を歩く恵子ちゃんに顔を向けられない。
かといって前を向いていても道なんて見ていない。

(告白してフラれた相手に「彼氏できた?」なんて…
 そりゃ聞かれたくないよな)

右肩が重い。右頬が引き攣る。

(本当は…あんなこと言うつもりじゃなかったのに)

傾いた木洩れ陽が視界を濁す。うっとおしい。

(ええい、言っちまえ!)

「あのね恵子ちゃん、さっきのね、あれはね、」
「あ。もうみんな片付け始めてるよ」

いつのまにか森を抜けていた。


690 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:57:44
「そろそろ帰るよ〜」

戻ってきた俺に母が言った。
今夜は太田家に世話になる予定だった。

「じゃーね、健吾君。今日はご苦労様」
「う、うん。さいなら」

恵子ちゃんの口調は優しかったが、
守さんを介抱するその背中は怒ってる…ような気がした。

…いつまでも見てたって仕方ない。
諦めて、お父さんの車に乗り込んだ。

がっかりだ。
自分に。


691 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:58:29
渋滞に巻き込まれながら太田家に帰り着いた時には陽はとっぷりと
暮れていた。さすがにみんな疲れていたため飲み直す気はなく、
三々五々、各々の部屋で休息をとることとなった。

俺は身体に染み付いたバーベキュー臭を洗い流そうと、風呂をつかった。
身体だけはさっぱりとし、居間に戻ると母が座っていた。

「お茶、飲む?」
「ん。もらうよ」
「今日はお疲れさん」
「ホント疲れた(笑)でも楽しかったよ」
「守さんと盛り上がってたね」
「あんまり飲めないのに付き合わせちゃって、悪いことしたよ」
「よろこんでたよ」
「ならいいけど」
「アンタがいなくなってた時、
 突然ガバッと起きだして『健吾どこだ〜』って騒いでた」
「マジで?あはは」
「気にいられたね」
「だったらうれしいね」
「恵子ちゃんのこと、好きなの?」

はい、とお茶を差し出しながら、流れるように母が聞いてきた。


692 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:59:16
「…なんで?」

視線をTVに固定したまま、平静を装った。
焦点はぼやけていた。

「なんとなく。今日のアンタ見てたらそんな気がしたの」

もはや言い逃れることも、取り繕うことも、俺自身が許さなかった。

「…うん。好き、だ」

まっすぐに母を見た。

「そう」
「うん」
「いつから?」
「ずっと、前から」

母の表情に変化はなかった。

「お父さん(実父)は、知ってるの?」
「いや、言ってない」
「そう…」

ふたりのお茶が冷めていく。
母の目の光が強くなった。

「恵子ちゃんには伝えたの?」
「…ううん…」

光がしぼんだ。
顔を伏せた母の声が小さくなった。

「私たちのこと…考えたから…なのね?」
「………」

廊下を踏む足音がした。誰かが起きてきたのだろう。

「考えさせてたのね…ずっと」

消え入るような声だった。




【長編】早く結婚してくれ(16)へ続く。
posted by なな at 01:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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