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2006年05月07日

【長編】早く結婚してくれ(17)

早く結婚してくれ
http://love3.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1131655290/l50
【恋愛サロン】

707 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:13:44
恵子ちゃんの仕事が終わってからということで、
待ち合わせは夜8時に設定していた。

家にいても余計なことを考えるばかりなので、日中から街に出た。
しかし、何をしていればいいのか思いつかない。

映画館に行ってみた。
ストーリーがまったく頭に入らず、1800円をドブに捨てた。

本屋に入った。
知らず知らずのうちに恋愛ハウツー本を手にとっていた。
しかもよく見ると女性向けだった。

喫茶店で休んだ。
ぼーっと、恵子ちゃんのことを考えた。
…なんだよ。
これじゃ家にいるのと同じじゃないか。

708 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:14:40
7:00PM
散々、街を彷徨ったのに約束の時間までまだ一時間もある。

…酒の力を借りよう。
決戦に備えて景気づけにもなる。
友枝とあの時行ったバーへと向かった。

開店まもない店内には客の姿はなかった。
いつものバーテンが「お久しぶりです」と俺を迎えた。

「待ち合わせ前なんで、一杯だけもらえますか?」
「はい。何になさいます?」

しばし考える。

思いつくのはひとつしかなかった。

「この間いただいた“両想い”、アレ…いいですか?」

カップルにしか出さないというカクテル。
しかしバーテンは
「憶えていてくださって、ありがとうございます」
快く応じてくれた。

淡いピンク色の水中を、ビーズのような気泡が踊っている。

今日は自分のために飲む。
軽く願掛けした。

その様を、バーテンが微笑みながら見守っていた。
なんだか気恥ずかしい。

ちびりちびり、じっくりと時間をかけて飲み干した。

「次回は2つ、お出ししたいです」

店を出る時にかけてくれたバーテンの声が、とても心強かった。


709 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:15:27
8:00PM
時間ぴったりに、恵子ちゃんは待ち合わせ場所へと現れた。

久々に見る恵子ちゃんのスーツ姿。
…タイトスカートって、いいなぁ。

「行きたいお店があるの」

恵子ちゃんの先導で向かった店は、初めてふたりで食事をしたあの店だった。
ひとり、気分が高揚する。
なんだか恵子ちゃんにお膳立てをしてもらっているようだ。

その日のオススメのワインをオーダーし、乾杯した。
俺はその杯に、またふたりでここに来れたことへの祝杯を重ねた。

「電話ではああ言ったけど、気を遣わないで飲んでね」

彼女の気遣いが愛おしかった。

だが今夜は俺も酒は控えるよ。
飲んだくれてる場合じゃないんだもん。

今日ここで、すべてが決まる。終わる。終わらせる。

しかしそんな意気込みも束の間、一時間も経つ頃には俺の心は苛立ち始めた。


710 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:16:11
ふたりで話しているとどうしても馬鹿話で盛り上がってしまう。
望む方向に会話を持っていけない。
なんとも色気のない話ばかりが続いた。
楽しいんだけど…いや、楽しいからこそタチが悪い!

「デザートでも頼もっか」

彼女に品書きを渡し、無理矢理、会話を中断した。
流れに変化をつけようと必死だった。

“デザート作戦”は功を奏し、恵子ちゃんはデザート選びに夢中になった。
ようやくシンキングタイムを手に入れた。

…しかし、どうしたものか。
切り口がわからない。
大体、こんな公衆の面前で女性に告白したことなんて今まで一度もない。
気の利いた言葉がひとつも浮かんでこない。

どうしよう。
どうしよう。

「はい。私は決まり。健吾君はどれにする?」

時間切れ。

「じゃ、じゃあ、俺は〜」

“イチゴとバナナの井戸端会議”なるものを注文した。


711 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:16:57
あれほど時間の観念がなくなった日はないだろう。
気づくと11時をまわっていた。

「そろそろ出よっか。終電も近いし」

おとなしく従った。

だがあきらめたわけではない。
駅までの道のりは徒歩10分。
当初の予定とは大幅に異なってしまったが、この際、四の五の言ってられない。
歩きながら、だ。

「あのね」



うわっ。

…恵子ちゃんに言葉を盗られた。

「実は、ね」

ここまでは俺の言いたいことと一緒だった。

「今、交際申し込まれてるの」

噴き出した脂汗が夜風に撫でられた。
(ああ、気持ちいいなぁ)
などと考えていた。


712 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:17:59
「…あ、相手は?」

現実に向き直った。

「同い年の、会社の人。職場でよく遊びに行くメンバーのひとり」
「じゃ、お互いによく知ってる仲なんだ…」
「うん」
「…恵子ちゃんは、その人のことどう思ってるの?」
「うん…すごく、いい人。ただ…」
「…ただ?」
「結婚を前提にって、言われたの」

熱帯夜、俺だけが凍りついた。
どうにか、口だけ解凍する。

「そ、そりゃ余程、恵子ちゃんのことが好きなんだねぇ」
「………」
「それで…ど、どうなの?」
「なにが?」
「い、いや、なにがって…悪い気はしないんでしょ?その人のこと」
「…わかんない。
 今まで仲の良い友達だと思ってたから…そんな風に見たことなくて」
「そうか…」
「ねぇ、健吾君。
 男の人って、付き合う前からいきなり結婚を意識するものなの?」
「そんなの…男も女も関係ないと思うよ。
 恵子ちゃんとその彼の間には、今まで身近に接してきた時間があったわけで、
 その中で彼が、恵子ちゃんを『この人だ!』って、感じたということでしょ?
 付き合う前の時間だけで、彼には充分だったんじゃないかな?」

なにを真剣にアドバイスしてるんだろ、俺。

「男女の仲になる前に…ってのは少し性急かもしれないけど、
 恵子ちゃんの良さに気づいたんだから、その彼、見る目ある人だと思うよ」
「やだなぁ、いつもの健吾君らしくないよ(笑)オチがないじゃん(笑)」
「いや、冗談じゃなくて(笑)」

本心なんだ。


713 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:19:00
「ありがとね、健吾君」
「いや…大したコト言えてないけど…」
「ううん…そうじゃなくて。…ありがとう」



どういう意味か聞きたかったが、すでに改札の前まで来ていた。

「送ってくれてありがと!ここでいいよ」
「うん…」

最終電車が来るまでまだ5分くらいあった。

引き止めたい。
何か話題は………何か話題を…。

「じゃ、健吾君。さよなら」

俺の言葉は、待ってはもらえなかった。



…これで終わりか?



改札の向こう、恵子ちゃんが笑顔で手を振っている。

………。

あわててSuicaを取り出し、改札に叩きつけた。


714 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:19:53
振っていた手を止め、恵子ちゃんがキョトンと俺を見ている。

「送る。ホームまで」
「え? いいよぉ(笑)」
「いいから…いいから…」

恵子ちゃんが眉をひそめて俺を見つめた。

ホームには最終電車がもう止まっていた。
時間調節しているようだ。

恵子ちゃんは電車の中。
俺は白線の上。

「じゃあ、これでほんとにさようなら(笑)」

さようなら、って、こんなにさみしい言葉だったんだ。

発車のアナウンスが、俺の背中を押した。
俺は電車に飛んだ。

すぐにドアは閉まった。
口をポッカリ開けて、恵子ちゃんが唖然としている。

「乗っちゃった(笑)」
「な、健吾君、なにしてるのぉ!?」

恵子ちゃんの口を見た。

「ごめん、恵子ちゃん。次の駅で、降りてくれ」

恵子ちゃんの口が「うん」と言ってくれた気がした。


715 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:20:54
次の停車駅までのほんの数分間、恵子ちゃんは俺の顔をずっと見ていた。
俺も恵子ちゃんを見つめ、決して負けなかった。

扉が開き、トン、と足をホームに下ろした。
すかさず振り返る。
ちゃんと恵子ちゃんも後に続いていた。

電車が出発するのを待つ。
電車が去った。
他の乗客がホームからいなくなるのを待つ。
いなくなった。

恵子ちゃんはずっと黙っていた。

「恵子ちゃん」
「…はい」
「さっきの彼氏の話、断ってください!」
「………」
「俺、恵子ちゃんのことが、好き、です」

恵子ちゃんが俺を見上げている、気がした。
震える四肢。

「もし、恵子ちゃんが俺のことを、ま、まだ、想ってくれてるなら、
 お、俺と…つきあ…てく…さい」

最後のほうの言葉は恵子ちゃんの言葉でかき消された。

「…自惚れてるなぁ(笑)」

絶句。
多分、金魚のような顔をしていたに違いない。

うわーうわーうわー。
やっちまった。やっちまったよ、おい。
とんだ勘違い野郎だったんだ、オレ…。





「でも」

視線を泳がせていた俺の鼻に、恵子ちゃんの匂いが流れ込んできた。

「ずっと…自惚れててください」

恵子ちゃんが俺の腰に両腕を回していた。


716 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:21:40
サラサラとした恵子ちゃんの黒髪が、俺の右手の中にある。
砂糖菓子のように容易く砕けそうな肩が、俺の左手の中にある。

俺は恵子ちゃんを抱きしめていた。

恵子ちゃんの匂いが俺をくすぐる。
出会った時から変わらない、いつもと同じ香り。
両腕に、もっともっと力をこめたくなる。

「ごめんねぇ。そろそろ、ホーム閉めたいんだけど(笑)」

ふたりとも、ビクッとなった。
すぐそこで、駅員のおじさんが笑っていた。

お互いにお互いの顔の赤さを認めつつ、

「す、すみませんでした!」

ふたりで改札まで駆けた。笑いながら。


717 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:22:48
改札を出るとすぐ、堰を切ったように俺は再び恵子ちゃんを抱き寄せた。
今度はもっとちゃんと、もっとやさしく。

10分。
灯りも消えた駅の入口に、ふたり、佇んだ。

このままいつまでも恵子ちゃんの髪を撫でていたかったが、
思い切って、身体を離した。

恵子ちゃんが俺を見上げた。

たまらず、また抱き寄せてしまった。

三度、恵子ちゃんの匂いを思いっきり吸い込んだ。
くすくすと、恵子ちゃんが笑った。

「すっごくクンクンしてるね(笑)」
「うん(笑)恵子ちゃんの匂い、好きだ」

後から聞いたのだが、アリュールという香水だそうだ。

飽きることなどなかったが、さすがに今度はちゃんと身体を離した。
代わりに恵子ちゃんが指を絡めてきた。

つないだ手を子供のように振りながら、ふたり歩き始めた。

「…ごめんな。変なところで降ろしてしまって…」

ようやく頭が冷静に考えることを思い出した。

「ううん…うれしかったから…いい」
「俺もすごくうれしい」
「…照れるね(笑)」
「照れる(笑)」

照れてばかりもいられない。

「どうしよ?また街に戻ってどこかで飲む?」
「うーん…」

恵子ちゃんが俺の顔を覗き込んだ。

「あのね。敏夫叔父さん(お父さん)のとこ、行きたい」

そう言うや否やすぐに顔を伏せた恵子ちゃんの耳は、
暗がりでもはっきりとわかるくらい、真っ赤だった。

「…わかった。行こ!」

すぐさまタクシーを拾った。


718 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:23:47
太田家にはまだ灯りがともっていた。
明日はお父さんも母も休みだから夜更かししているのだろう。
玄関の鍵は開いていた。

「ただいま!」

ことさら元気に扉を開けた。
出迎えた母が俺たちふたりを見て目を丸くした。

「ふたりで飲んでたんだ。調子にのって、終電間に合わなくしてしまって」

とってつけた言い訳。
だが母は気にするでもなく、うれしそうに恵子ちゃんを中へと誘った。

居間に行くと、お父さんがテレビ画面に張り付いていた。
どうやらこの夫婦はテレビゲームに熱中していたらしい。
…このふたりも来年、還暦を迎えるのだが。

お父さんも母同様、俺たちを見て驚いた。
俺は同じ言い訳をした。

「今夜は泊まってもらいますから」

母が恵子ちゃんの実家に電話を入れてくれた。

4人で茶を飲む。

無言。

だがお父さんも母もニコニコと俺を見ている。
恵子ちゃんから湯気が出そうだった。

(…バレバレじゃないか(笑))

もとからそのつもりだ。
用意していた台詞を口に出した。

「俺たち、付き合うことにしました」

お父さんと母の顔がパーッと輝いた。

「おお!そうかぁ、そうかぁ」

お父さんがはしゃいでいる。

「よかったねぇ、よかったねぇ」

母がティッシュを鷲掴みにして顔を拭っていた。

恵子ちゃんは恥ずかしそうに湯呑みを弄んでいた。


719 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 16:24:37
翌朝早くに恵子ちゃんは家へと帰っていった。
お父さんの車を借りて送るつもりだったのだが、

「午後からお友達の結婚式でしょ?
 それまで休んでて。昨日は遅くまで起きてたし」

という恵子ちゃんの言葉に甘えさせてもらうことにした。

彼女が帰った後、恵子ちゃんの実家に電話を入れた。
恵子ちゃんの母・浩美さんが出た。

「すみません。昨晩は恵子ちゃんを連れまわしてしまって」
「いいええ。健吾君なら安心。また誘ってあげてね」

安心…か。

(早いうちに恵子ちゃんの両親にも挨拶しなきゃな)

少しも気は重くはならず、むしろその日を焦がれた。



【長編】早く結婚してくれ(18)へ続く。
posted by なな at 01:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | 恋愛サロン
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