君へ。君とはじめてであったのはいつだろう。
ただなんとなく放課後の学校の下駄箱の横のベンチに座っていた時。
僕はいつもたった20分たらずの日が沈む間の儚い心みたいな空をみるためにそこにいた。
日が沈む瞬間、僕は目を瞑って、何も考えずただ暗闇の中に身をおいているんだ。
しばらくして目をあけると、君は向かいのベンチに座ってて。でも君も空をみてた。
僕は空を見るふりをして、君をそっと見ていた。長い髪、白い肌。でもどことなく寂しそうな顔をしてた。
ふと目があって、動揺した僕はうつむきかげんに目をそらす。
君はなにも言わずに僕のほうをじっと見て。
そして一回うなずくと、立ち上がって少し背伸びして、去っていった。
去っていく君の背中を見送って、僕はまた空を見上げた。
「あぁ、これが、恋か。」
僕は心の中でそう呟いて、バックを肩にかけてその場を後にした。
365 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 18:57:50
数日後、僕はつまらない授業ばかりで空ばかり見てた。
僕はとにかく空が好きだった。空は綺麗だ。
雲ひとつない快晴も、星の輝く夜空も、曇り空も、雨空も。そして夕焼け空も。
君も雨の日にできれば傘を捨ててほしいんだ。
そして見上げてみてほしい。雨はダイヤモンドや宝石なんかより、幾らも綺麗だから。
そんな事をろくに数学なんか聞かずに考えているんだ。
そんな時は眠るのがいいかもしれない、でも目蓋を閉じると君の顔が浮かんでしまう。
だから眠れないんだ。だから僕は空をみてる。
367 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:01:03
いつもの場所にいくと、今日は先に君が来ていた。
君はやっぱり空を見上げてて、どこか悲しげな表情で。
僕は目を合わせないように、うつむきかげんにいつものベンチに座る。
そしてまた例によって空を見るんだ。たった20分たらずの、儚い命の空のために。
それは青ともオレンジとも、紫とも黄色ともいえなくて、ただ、美しい。
言葉に出来ないほどそれは美しいんだ。僕はその20分の間、まばたきせずにそれを見てる。
儚い命が消えて、辺りが暗くなり始めると僕は向かいのベンチに目をやるんだ。
やっぱりそこには君がすわってて、でもその日はなぜか僕のほうをみてた。
君はこの前みたく、やっぱりうなずいて一言、こう言った。
「また、明日ね。」
僕はただ目を丸くする事しか出来なくて、曖昧な返事しか出来なくて。
でも心は苦しくて、無性にうれしかった。
371 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:08:53
僕は次の日も、またその次の日も明くる日も、やっぱりそこにいるんだ。
毎日毎日、同じ事の繰り返しみたいで。そんな繰り返しは無意味かもしれないけれど、僕はそれでよかった。
そこに、君がいたから。僕らは空を見送ったあと、少しだけ話す。
「空、綺麗やね」
君は何も言わずに、ただそっと微笑んで、小さくうなずく。
君と話した時間は短い。長い時間話していたのかもしれない。
でも、いつも短く感じた。そう、いつでも。
君と話しているうちに、君が百合の花が好きだとか、辛いのは苦手だとか。
そんな些細な事でも僕はほんとにうれしくて。
君の目を見ながら話すように。うなずきながら。話してた。
そんな日がずっと続けばいい、また明日もこの時間がくる、そんな風に思ってて、
毎日が楽しかった。
376 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:15:45
一ヶ月くらいたって、やっぱり君はそこにいて。僕もやっぱりそこにいる。
いつものベンチ、誰もない下駄箱の横の、二人座るのが精一杯の、小さなベンチ。
いつのまにか君は向かいのベンチから、僕の横に座るようになっていて。
毎日決まった時間に、空を見送っていた。そして、話し、笑い、また明日。
そんな日がずっと続いていたから、僕はそれが当たり前のようになっていたんだと思う。
君にはいつか自分の気持ちを伝えようと毎日思っていたけれど、
その一言が言えなくて。また明日、また明日と、日は過ぎていった。
そんな僕だから、きっと告白するときなんかは、目をあわせれないんだろうね。
ただ、うつむいて、君に気持ちを伝える事しか、できなかったと思う。
だから僕はなかなか言えずに、空を見上げる事しか出来なかった。
382 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:29:20
君は次の日も、そのまた次の日も、明くる日もこなかった。
僕は自分に言い聞かせる今年か出来なくて。
友達にも偽りの笑顔しか見せられなくて。気が気じゃなかった。
でも、なぜか君のクラスには行く気が起きなかったんだ。
僕らは、あの場所でしか会ってなかった。だから、怖かったのかもしれない。
それでも、君が来ない日が重なっていくにつれて、僕の胸は苦しくて。
とうとう君のクラスに行ってみたんだ。
君のクラスも僕のクラスとさほど変わりなかった。
周りが見えていなかったのかもしれない、でもみんな同じ顔みえたんだ。
僕は近くにいた男子に、君の事聞いたんだ。
すると彼は、一言、すこし疲れた口調でいったんだ。
「最近、学校にも来てないよ」
僕はその時、いやおうなしに早退することにした。
383 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:33:34
僕は走った。君の家などわからない。聞かなかった。いや、聞けなかった。
でも走った。どこにあるかもわからない君の家を目指して。
ずっとずっと、探していたけれど、当たり前だけど僕はたどりつけなかった。
気づくと時間はいつもの時間で、日が傾き、空は染まってた。
僕は息をきらしながら、その空をみたんだ。まばたきすることなく。
その日は、空を見てる時間がほんとに長く感じられて。僕はただ。うつむいて。
涙がでそうになったのをこらえて、僕は家路についた。
384 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:36:49
翌日、何事もなかったかのように登校した。
もちろん内心どうしようもないくらい苦しかったけど、休むわけにはいかなかった。
今日は君が来るかもしれないから。だから僕は今日もきた。
昨日、僕が無断で早退したおかげで、僕はこっぴどく先生に叱られた。
でも内容は覚えていない。ほとんど聞いていなかったんだ。上の空だった。
その日も君がこないのを、諦めていたけれど、僕はそれでもいつもの場所にむかった。
下駄箱の横の、二人が精一杯座れるだけの、小さなベンチ。
僕はそこにひとり座って。いつもの空をみていた。
385 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:41:20
君の訃報を聞いたのは、その翌日だった。
自殺だった。全校放送でそれが流されて、6時間目がつぶれて、全校集会になった。
僕は君が死んだことなど、当然信じられることなどなかった。
その日僕の心はどこかに行っていたんだ。ぽっかり、穴があいたみたいに。
全校集会では、詳しい事は話されなかった。
ただ、亡くなった、自殺してしまった。それだけだった。
校長は不在で、教頭が変わりに話していた。通夜のこと、葬式の事。
僕はまったく耳を貸さなかった。聞きたくなかった。
僕はその日、いつもの場所に行く事はなかった。
387 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:48:12
その日の夜。僕は通夜に出席した。
君の顔は相変わらず色白いんだろう。そんな風に考えていたけれど。大きな間違いだった。
君の顔は青紫色になって、まるでゴムみたいに、そこに横たわっているだけだった。
首にはひどいあざがあった。ロープの後が、くっきりと。
死は美しくもなんともない。逃げたところでそこにあるのは、醜いただの肉塊だった。
僕はそれでもやっぱり現実が信じられなくて、君の顔をろくにみずにその場を後にした。
家に帰る途中の空は、星ひとつない。不思議な空だった。
僕は家にかえると、沈み込むように布団に倒れた。
だけど、目を瞑ると、君の顔が浮かんできて。僕はかき消そうとしてもできなくて。
急に吐き気に襲われて、僕はトイレにかけこんだ。
ただひたすら、泣いた。嗚咽が漏れて鼻水がでて、何も考えられず。
こらえることなどできず、その現実から逃げる事もできずに、僕は泣いた。
389 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 19:57:10
泣いても泣いても、君の顔は消えなかった。
洗い流される事なく、君の顔が浮かんでくる。
でも僕には何も出来ず、その日はただ、泣いた。
翌日、君の葬式だった。君の葬式で、噂を聞いた。でもそれは、流した。
葬式に、君の父親はいなかった。母親は蝉の抜け殻みたいにただ一点を見つめていた。
僕は君に、君の好きだった百合の花をたむけて、顔をみないように、そのまま式場を後にした。
僕は、家に帰り、自分の机に座って、大きく息を吸った。
気づいてしまった。
わかってしまった。
さっき聞き流した噂。それは本当だった。
君が死んだのは、父が執拗に体を求め、君を喰らっていたから。
僕は自分を呪いたくなった。いや、自分を殺したくなった。
なぜそれに気づいてあげれなかのか、なぜ君は悲しい顔をしていたのか。
僕はただ自分に湧き上がる衝動を抑えようと必死だった。
君の父親を死ぬほど憎んだ。心の中で200は殺した。
だがそれがおさまることは、なかった。
391 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 20:07:43
気づくと僕は眠ってしまっていた。
目が覚めると、拳を強く握り締めていたのか、爪の後がくっきりとついている。
僕は起き上がって。学校へむかった。
その日は休みだったけれど、僕は学校にむかった。
いつもの場所にむかうためだ。
僕は学校に向かう途中、一度も空を見上げる事はなかった。
ただ、その日、学校にむかう道はとても長く、永遠に感じた。
僕はようやく学校について、いつものベンチにすわる。
もう涙もでない。そこにあるのは、限りない憎しみだけだった。
君のいない悲しみと、自分の情けなさで、ほんとはもっと泣きたいはずなのに。
涙は、一粒とて、出る事はなかった。
君といた幾ばくの時間。なぜ君に好きと伝える事がきなかったのか。
大好きだったのに、君にこの想いは伝えられなかった。
この世は、無情だ。この世は、空みたいに、からっぽだった。
僕はすこしもおさまらないこの憎しみと、悲しみを背負ったままでも
君に一言、謝りたかった。君にあって、謝りたかった。
そうして僕は夏の前の少し蒸し暑く、虫が鳴き始めるこの日
自殺を心に決めたのだ。ただ自分を失うためじゃなく、君に謝るために。
392 名前:空[] 投稿日:2005/05/26(木) 20:10:46
長くなって申し訳ありませんでした。
この文章は、8年前、息子が最後に書き記した、 遺書 です。
わたしはこの8年間、ずっと現実を切り離して生きてきました。
しかし、みなさんの素晴らしいお話を聞いて自分の息子とかぶってしまったのかもしれません。
ですが、私は息子の想いを、誰かに伝えねばと、衝動的におもったのです。
嫌な思いをされたかた、本当に申し訳ありませんでした。
それでは。
395 名前:恋する名無しさん[] 投稿日:2005/05/26(木) 20:15:50
僕はこれからの人生で、長い長いラヴ・ストーリーを、作っていく。
396 名前:恋する名無しさん[] 投稿日:2005/05/26(木) 20:27:56
>>395
いつか聞かせてくれ。